(写真・神奈川新聞社)
山道を走るトレイルランニング(トレラン)愛好者のマナー向上を狙い、鎌倉市は条例制定に向けた検討を始めている。かねて登山や散策を楽しむハイカーとの接触事故への懸念があり、ランナー側は自主ルールを設けるなど共存の道を探ってきたが、議論は折り合わぬまま。市は安全確保や自然保護には条例化もやむを得ないと判断、誰もが快適に利用できるハイキングコースを目指すことにした。制定されれば全国初という。
市内の主なハイキングコースは「天園」「葛原岡」「祇園山」の3コースで、高低差や道幅が狭い場所が多い。市観光商工課によると、人気の天園コースは年間43万人が訪れ、このうち2~3%がランナーと推計される。
コースの清掃や見守り活動を続けるボランティア団体「ハイキングクリーン」は2014年、接触による転倒や滑落事故を防ぐため、タイムレースや団体走行の禁止、ランナー専用道の新設などを盛り込んだ条例制定を求める陳情を提出。同年3月の市議会で採択された。
これを受け、市内のランナー有志らは「鎌倉トレイル協議会」を設立。ハイカーとの共存を図るため、「すれ違うときは歩く」「坂道はハイカー、観光客、親子連れ優先」といった自主ルールづくりと普及啓発に取り組んできた。市は双方の意見を聞きながら、ルールの徹底度や効果を見守ってきた。
今年1月下旬、市は再び両団体を集めた意見交換会を開催。協議会は「ルール周知にもう少し時間がほしい」と主張したが、ハイキングクリーンは「改善は見られる一方でマナーの悪いランナーもいる。事故が起きてからでは遅く、条例で規制が必要」と訴えた。
市は「条例化せずとも共存できる道はないかと話し合いを重ねてきたが、議論は平行線の部分もある。陳情採択を重く受け止め、条例化へ具体的に検討する時期と考えた」と説明。マナーを啓発する理念を掲げるか、レース禁止など両者が合意できる点について規制を設けるかなど、条例の内容は今後検討していく。
ハイキングクリーンの御法川齊代表は「条例ができれば危険なランナーに注意する際も説得力が増し、全国へのPR効果も非常に大きい」と強調。協議会の滝川次郎会長は「陳情が採択されたのだから、取り下げられない限り条例化は仕方ないと思う。ランナーに限らずすべての人が気持ちよく山道を利用できる条例になれば」と話している。