(写真・神奈川新聞社)
31日に横浜スタジアムで行われた高校野球の全国選手権神奈川大会で、横浜高校が3年ぶり16度目の優勝を飾った。就任1年目で甲子園出場を勝ち取った平田徹監督(33)は感極まり、恩師の渡辺元智前監督(71)はまな弟子の手腕をたたえた。
「本当に幸せ者ですね」。ナインの手で3度、宙に舞った平田監督は三塁ベンチに座ると、その目に涙が浮かんだ。
プレッシャーとの戦いだった。昨年夏の大会後、32歳の若さで春夏合わせて甲子園を5度制覇している名門を引き継ぎ、「これが天命。懸命にやれば天佑(てんゆう)があると信じていく」と言い聞かせて戦ってきた。
春の選抜大会出場が懸かる昨秋の関東大会では、「ここで一気に甲子園を決める」と自らが気負いすぎて初戦負け。ショックの中で、上杉謙信が出陣の際に使ったとされる「死中生あり、生中生なし」という言葉に出会い、「生き残ろうとしているところに生はない。死を覚悟したところに初めて生が芽生える」と勝ちたい気持ちを抑えて試合に臨むようになった。
秋、春の県大会を制し、超高校級のエース藤平尚真投手を擁する大本命は注目から逃れられない。開幕前、「本音を言えば不安だらけ。経験値のない指導者ですから、どこでもろさが出てしまうか」ともらしたこともあったが、夏の戦い方を恩師に尋ねはしなかった。「甘えたり、頼ったりせず、自分自身で悩み苦しんでみたい。それが自分自身を成長させることだと、渡辺監督から教えられてきた」
主将だった現役時代は2001年夏の甲子園で4強入りしたが、自らがプレーしたのは途中出場の1試合だけだった。国際武道大卒業後、06年に母校の保健体育科教諭とコーチに就任。部長を経て昨年8月に大役を引き受けたが、今も週に5日は合宿所に泊まり込んで選手たちと寝食を共にしている。
藤平投手と石川達也投手の両エースが背番号1を争った際には、「僕にとっては二人ともかわいい子ども。優劣をつけなきゃいけないのはつらい」と最後まで悩み抜いた。
その選手たちが投打に活躍しての初優勝。「苦楽を共にする選手が一緒に戦ってくれるので、孤独感はなかった。一緒にプレッシャーも乗り越えられました」
決勝の後、名将が「平田は選手の力を引き出すのがうまい」と話したことを告げられると、「渡辺監督に褒められたことがないのでうれしい」と、ようやく日焼け顔をほころばせた。