(写真・神奈川新聞社)
家庭から出る天ぷら油などの廃食用油を、重油や軽油に代わるバイオ燃料にリサイクルする地域主体の試みが、横浜市内で動きだしている。その名も「台所油田プロジェクト」。燃料の販路開拓などに課題は残すが、ごみの減量化だけでなく二酸化炭素(CO2)の排出削減にもつながることから、家庭や地域で実践できる身近な温暖化対策として定着を図る考えだ。
旗を振るのは、環境関連のNPOや自治会、企業、市などでつくる横浜市地球温暖化対策推進協議会(会長・松本真哉横浜国大大学院教授)。取り組みが動きだしたのは2012年度で、当初は行事会場に持参してもらう形が中心だったが、15年度から本格化し、趣旨に賛同した港南区の自治会などが拠点を決めて定期回収を行っている。戸塚区や旭区にも協力する自治会があり、栄区でも実施に向けた検討が進んでいる。
集まった油は、協議会会員の信愛エナジー合同会社(泉区)が買い取り、独自に開発したバイオ燃料にリサイクルしている。「一般的なバイオディーゼル燃料(BDF)と異なり灯油を混ぜるが、超音波を使うため精製時に大きなエネルギーを必要としない。処分が必要となる副生成物が生じないのも特徴」と同社。バイオ燃料は現在、県内のビニールハウスやクリーニング工場のボイラーなどに活用されているという。
昨夏に始まった港南区芹が谷地区での定期回収は今秋から拡大し、5自治会で実施。自治会館などを回収拠点とし、各家庭からペットボトルなどの容器に入れて持参してもらっている。
学習会も開いて温暖化対策の必要性を学んできた芹が谷連合自治会の藤田誠治会長は「皆が少しずつ協力する意識を持てば、それほど難しい取り組みではない。子どもたちが将来も安心して暮らせるよう広げていきたい」と強調する。今月5日の港南、栄両区の区民まつり会場でも回収する。
協議会によると、15年度の回収実績は2400リットル余り。約6トンのCO2削減となり、植林に換算すると約470本分の効果があった。佐藤一子事務局長は「日本のエネルギー自給率はわずか6%。まだささやかな取り組みだが、廃食用油での発電も目指し、エネルギーの地産地消を広げたい」と青写真を描いている。
■資源化も活用法に課題
廃食用油の資源化は、県内でも既に多くの自治体が取り組んでいる。軽油の代わりとなるバイオディーゼル燃料(BDF)にリサイクルするケースが多いが、回収、活用のいずれにも課題がある。
横浜市地球温暖化対策推進協議会アドバイザーの古川務・東京都市大准教授が6月に行った調査では、県内33市町村のうち22市町村が廃食用油の分別回収を実施。家庭の負担が大きくならないよう、使用済みのペットボトルに入れてもらい、ごみ集積所で回収する手法が一般的だ。しかし、ある市の担当者は「いったん油を入れたボトルはリサイクルできなくなってしまう。焼却処分せざるを得ない」と明かす。
資源化後の使い道にも悩ましさがある。BDFは収集した自治体がバスやごみ収集車などの燃料に使っているものの、燃料フィルターの目詰まりやエンジンの不具合などを起こす恐れがあるとされる。
「事業者と協議会を設けて不具合対策の研究や実証実験を重ね、導入車両を拡大した」(小田原市)例もあるが、資源化していない自治体からは「燃料の質は一つの懸念材料」(川崎、横須賀市)といった声が上がる。集積所に可燃性の油が集まることで、安全管理への不安を指摘する自治体もある。
横浜市も一般廃棄物処理基本計画の中で廃食用油の回収を検討課題に挙げてはいるが、「具体的な方向性はまだ決まっていない」。こうした中で進む市民主導の試みについて、古川准教授は「回収と活用の両方の課題を一挙に解決するのは難しい。まずは回収面で定着を図り、活用の促進につなげるしかない」としている。