(写真・神奈川新聞社)
19人が刺殺されるなどした県立障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)が取り壊されるのを前に、入所者らが5日、横浜市港南区の仮移転先への転居を開始した。昨年7月の事件から約8カ月。入所者たちは環境の変化に動揺を見せつつも、家族とともに「再生される津久井やまゆり園にまた帰る」との願いを胸に、新しい生活をスタートさせた。
県によると、5日に転居したのは津久井にいた女性20人と厚木市内の施設に集団移転していた男女41人。各施設からマイクロバスなど計5台で移動し、到着後は各部屋に入室した。4月中に計約110人が転居する予定で、今月下旬に津久井に残る男性40人が引っ越す。このほか、県内の複数施設にいる約10人が個別に移る予定。
仮移転先は3月末に閉鎖した障害児入所施設を県が1~3人部屋に改修し、「津久井やまゆり園芹が谷園舎」と名付けた。指定管理者の「かながわ共同会」の職員約100人が勤務する。津久井の施設は2018年度以降に取り壊され、仮入居は約4年となる見通し。
黒岩祐治知事はこの日の定例会見で「安心した形で生活になじんでもらえるようしっかりとフォローしたい」と、転居完了後に園舎を訪れる意向を示した。
やまゆり園の再生を巡っては、県は当初、入所者計約130人が戻れる規模を前提に現地での全面建て替え方針を打ち出したが、障害者団体などから異論が相次ぎ、現在は県障害者施策審議会の専門部会で議論中。知事は再生の在り方について「部会の議論を見守りたい」と述べるにとどめ、再生基本構想を当初の予定通り夏ごろまでに策定する考えを示した。
■「ここで笑顔支える」園長
転居先となった芹が谷園舎前では5日午前、入倉かおる園長ら職員約10人が出迎える中、分散していた津久井やまゆり園の入所者が次々とバスで到着した。
建物へ入る際、職員が手を引いたり両腕を抱えたり、車いすに乗せて入所者をサポート。「はーい、いいよー、上手だねー」「もう一つ階段ありますよ」などと職員が声を掛け、時おり入所者が笑う声も。
取材に応じた入倉園長は「どうにか今日にたどり着いた。ここで笑顔あふれる暮らしを支援していけるよう努力したい」と述べた。
入倉園長によると、環境の変化に戸惑いを見せる入所者も少なくないという。特に自分たちを支援してくれる職員のことを気に掛ける人が多く、「そばにいてくれた職員が一緒に行ってくれるのか、すごく心配しているな、という印象を受けた」と語った。
職員自身も通勤手段の変更や、転居するなど環境が大きく変わることになるため、入倉園長は「不安なことはお互い声を掛け合っていこう」と話しているという。
殺傷事件の現場となった障害者施設「津久井やまゆり園」では同日午前9時50分ごろ、入所者たちが2台のバスに分乗して出発。玄関前で約20人の職員が、大きく手を振りながら笑顔で送り出した。
門の外では近隣に住む元職員の太田顕さん(73)ら6人が出発を見守った。太田さんは「4年後どうなるか、まだ分からないが、ここに戻ることになったら大いに歓迎して迎えたい」と話した。