(写真・神奈川新聞社)
都道府県警察の枠組みを超え、優れた技能や知識を伝える警察庁指定の広域技能指導官に、県警職務質問検挙指導係「チームはやぶさ」のリーダーを務める徳永裕之警部(58)が選ばれた。同指導官の制度は1994年に始まったが、全国で18人しかいない「職務質問」の分野で指定されたのは県警初だ。「職務質問は拳銃よりもすごい武器なんですよ」と話す職務質問のプロは日々、後進の育成に励んでいる。
「本当は怖い。でも、それ以上に相手はびびっている」-。5月下旬、東京都小平市にある関東管区警察学校の一室。県警地域指導課の徳永警部は、関東地方の警察本部などから集められた新任の巡査部長にそう語り掛けた。
職務質問という仕事にすごさを感じたのは、18年ほど前。警視庁の研修に参加し、都内の繁華街で職務質問した時だ。
指導員が覚せい剤取締法違反容疑で現行犯逮捕するなど次々と成果を挙げるのを、目の当たりにした。「目からうろこが落ちた」と感じながらも「東京でできるなら神奈川でもできるはず」と強く思った。
それ以降、現場で試行錯誤しながら自己流で職務質問の仕方を模索。2003年に横浜市南区の路上で尾灯が切れていた車の運転手を呼び止め、車内から覚醒剤や大麻を発見するなど、これまで多くの摘発につなげてきた。
不審者を発見し、持ち物検査に応じてもらう極意は丁寧な言葉遣いにあるという。「ごめんなさい」「ありがとう」「すみません」「すぐ終わります」「助かります」-。徳永警部は「低姿勢で、相手に協力してもらうことが肝要」と説く。
街の安全を預かる地域課員だが、かつては「薬の売人なんて危ないから声を掛けない方が良い」などと周囲に言われていたという。自らもそんなイメージを抱いていたと明かすが「やればできる、と確信した」と言う。今は、不審なことはないかと五感を働かせる姿勢こそ、地域の安全に欠かせないと感じている。
もちろん、失敗したケースもある。暴力団関係者とみられる男に職務質問しようとしたが、仲間を大勢呼ばれ、うまくいかなかったことも。「相手の方が上手だった」と反省を口にする。
一昨年の秋からは「チームはやぶさ」のリーダーとして、後進の指導に尽力する。広域技能指導官の職の傍らで各署を回り、声の掛け方などを実地で指導している22人のメンバーを取りまとめている。
チーム名の由来は、「はやぶさの目で不審者を見定め、相手が逃げる前にはやぶさのようにすうっと近づいて声を掛ける。かっこいいでしょ」とほほ笑む。
「職務質問することで事件が起きる前に逮捕できるかもしれないし、起こそうとしていた犯罪を思いとどまらせるかもしれない」と徳永警部。「警察官一人一人がスキルを高め、多くの犯罪者を検挙することで県民の安心・安全につなげたい」と意気込んでいる。