(写真・神奈川新聞社)
犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が、自民、公明両党と日本維新の会などにより参院本会議で強行採決された。
やはり、と言うべきだろう。「安倍1強」の下では、衆院に続き参院でも、同法が一般人に対する監視強化や捜査権の乱用につながり、内心の自由をも脅かすといった懸念や疑念を拭うことができなかった。
説明責任を果たすより審議時間の目安をこなし、会期中に何としても成立させようと試みる。東京五輪・パラリンピックのためのテロ対策を強調することで国民の目をそらし、種々の問題を内包した法律を押し通す。政権のこうした強引な姿勢は断じて許されない。
批判や異論を受け入れない政権の体質は審議中から際立っていた。
国連人権理事会が選任した特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏は5月、安倍首相に公開書簡を送り、同法案によるプライバシー権の侵害を払拭(ふっしょく)するよう求めた。
しかし、首相は国会で「著しくバランスを欠き、信義則にも反する」などと非難。同氏は非公開の書簡をあえて公開したのは法案が成立間近で時間がなかったためと説明した上で、先週の日本弁護士連合会主催の集会でも「警察による監視活動への監督が必要だ」と再び警鐘を鳴らしたが、顧みられなかった。
また、表現の自由を擁護する世界的組織の国際ペンクラブも先週、立法に反対する決議を国会に強く求める異例の声明を発表。国内でも12日までに法案に反対する153万筆を超す署名が寄せられたという。
安倍政権はなぜ、内外で高まる異見や異議に背を向け、また耳を貸そうとしないのか。
背景に、衆参両院で与党が多数を占める「数の力」へのおごりがあるのは間違いない。自民党内にも首相に物言う勢力が乏しく、建設的な批判や多様な提言が政権中枢に届いていない。連立を組む公明党も自任するブレーキ役を果たし得ていない。
何より政権は、国民の疑念、怒りも時間がたてば治まり、支持率にも影響を及ぼすことはないと高をくくっているように見える。この国民を侮るかのごとき政権の暴挙を忘れてはならない。「言論の府」が機能しないのであれば、次は国民の側が正す番である。