(写真・神奈川新聞社)
日本を代表するクラシックホテルの一つで、洋食の源流ともいわれる、ホテルニューグランド(横浜市中区)。ことし開業90周年を迎える同ホテルが、伝統の味を後世に残すため、多くのレシピを残した初代総料理長、サリー・ワイルのレシピの復刻、整理を進めている。これまでの7年間で、スープやソース類を現在の味覚と合うようアレンジし、レシピをデータ化した。5代目の宇佐神茂総料理長(65)は「分かりやすく受け継いでいきたい」と思いを語る。
スイス出身のサリー・ワイルが来日したのは、関東大震災後の横浜の復興のシンボルとして同ホテルが開業した1927年。本格的な西洋料理を初めて日本へ持ち込んだとされる。
その後、同ホテルでは、オリジナルの洋食メニューが生み出されていった。体調を崩した外国人宿泊客のために喉越しの良い料理を、と即興で考案したシーフードドリアや、パスタにケチャップをかけて食べる米兵から着想を得たというスパゲティナポリタン、見た目が豪華でボリュームがあるデザートを求めて生まれたプリン・ア・ラ・モード。こうしたメニューはその後、全国に広がり、身近なメニューになった。
レシピは当時、口伝で受け継がれたが、サリー・ワイルのまな弟子で2代目の入江茂忠総料理長が走り書きしたメモが千数百ほど残る。こうした“財産”を確実に継承しようと、現代のニーズにアレンジしつつ、レシピのデータ化に2010年ごろから取り組んでいる。
宇佐神総料理長が「(かつては)青臭かったトマトだが、現在は糖度が全く違う。昔は純粋な和牛を使っていたり、冷凍技術もないため魚はほとんどフレッシュだった」と話すように、1代目、2代目総料理長の時代と比べ、食材を巡る状況は変化した。そうした状況を勘案すれば、調味料などはグラム単位で修正が必要という。「素材の変化で微妙な味わいが変わってくる」からだ。
これまでに取り組んだのは、ホテルの味のベースとなるスープやソース類。試作を繰り返しながら味を調整し、レシピとしてまとめた。一品料理はまだまだ手が付いていない状態だが、「ゆくゆくは一品料理も数値化したい」。現在は提供していない料理を節目で復活させたり、イベントでの提供などにも積極的に取り組みたいという。宇佐神総料理長は「オンリーワン、うちでしか出せない物を残していく。それが横浜を代表するホテルとしての役目」と意気込んでいる。