(写真・神奈川新聞社)
川崎市宮前区菅生の住宅街に、小規模な酒蔵の日本酒専門店「青木萬吉商店」がある。各地で家族経営の蔵元を巡り、大手流通に乗らない隠れた名品を紹介している。取引する酒蔵は約50に上り、現在も開拓を続ける。徹底した品質管理で都内の飲食店にも信頼され、地域の酒販店が苦戦する中、存在感を発揮してきた。店主は2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて「より広く日本の食文化を紹介したい」と意気込んでいる。
一般的な酒販店では見たことがない銘柄の日本酒が、整然と並ぶ店内。米の品種や精米歩合などが異なる500銘柄ほどを常時取り扱い、ほとんどが県内で2、3軒しか扱っていないという。
扱う蔵元はいずれも問屋流通がなく、滋賀県や兵庫県など、西日本の地域が多い。代表の青木智子さん(62)は、「日本酒は東北のイメージが強いだろうが、発祥は奈良県。一生懸命こつこつと努力しながらも流通販路がないお蔵さんとお付き合いしている」と説明する。
日本酒の保管には温度が極めて重要で、同店では5段階の温度に分けて、商品ごとに最適な環境で陳列。照明も、商品に影響を与えないよう美術館で使用しているものを使う徹底ぶりだ。個性的な日本酒を追求する東京都心の飲食店が口コミで訪れ、ともに蔵元を回ることもある。
米穀店だった同店が酒類を扱い始めたのは、37年前。当時は好景気で、商品を置けば売れた。だがバブルがはじけると廉売店が増え、コンビニエンスストアやスーパーなどの身近な店でも酒を販売するように。商品の値崩れも始まった。
「生き残るには、地酒しかないと。どこにも売っていないものを自分で探して紹介しようと思った」と青木さん。新潟や東北の地酒一辺倒だった風潮にも、あえて逆らった。
蔵元巡りは、主に息子の博義さん(37)が担う。各地の地酒試飲会で気になった酒蔵を訪れ、関係をつくってきた。今年は佐賀、長崎県など4軒を回った。博義さんは、「もちろんうちの店も大きくなりたいが、蔵元さんにも(高級車の)ベンツに乗ってもらいたいし、農家さんにもフェラーリで田んぼに行ってほしい」と笑顔で話す。
シニアソムリエやチーズプロフェッショナルの資格を持つ智子さんは、顧客の要望に合う日本酒のコーディネートも得意だ。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に和食が登録され、日本酒が海外でも脚光を浴びる中「日本の食文化に携わることができて誇りに思っている。いいものだからよりよくおいしく召し上がっていただきたい」と言う。今後は、より地域に密着しながら日本酒の良さを紹介するため、一般向けの試飲会の開催なども構想しているという。
青木萬吉商店は電話044(977)1129。