(写真・神奈川新聞)
安倍晋三首相が主導して衆院選向けに掲げた幼児教育・保育の無償化の対象範囲に、横浜市が神経をとがらせている。同市は多様な受け皿を用意するスタイルで2013年に待機児童ゼロを達成しており、それらの保育サービスに等しく補助されなければ待機児童の大幅増にもつながりかねないからだ。来夏をめどに先送りされた詳細な制度設計には「保育の現場を知る自治体の意見を聞いてほしい」と強く要望している。
首相は衆院解散を宣言した9月25日の記者会見で、総額2兆円規模で高等教育無償化のほか、「全て」の3~5歳児の幼稚園・保育所の利用料、低所得世帯の0~2歳児の無償化を進めると表明した。
だが認可外施設を含めるのかなど対象施設があいまいだったため、保護者や自治体の懸念が広がった。
これに危機感を抱き、素早く反応したのが横浜市だ。林文子市長は11月下旬に5回にわたって内閣府や文部科学省、厚生労働省を訪れ、「無償化は望ましいが、その制度設計においては保育の現場を知る自治体の意見を聞いてほしい」と緊急要望を行った。
市は13年に待機児童ゼロを達成、その後も4月時点では20人以下を維持している。09年1290人、10年1552人と2年連続で全国ワーストだった待機児童を急減させたのは、認可保育所の増設に加え、多様な受け皿を用意した結果だ。
なかでも幼稚園の預かり保育は全国に先駆けて00年から本格実施。かつては「文化が違う」と預かり保育に消極的だった幼稚園に協力を求めるとともに、保護者にも市専門相談員の「保育・教育コンシェルジュ」が利用を案内してきた。預かり保育の利用者が増えるにつれて待機児童も減り、現在では市内幼稚園の約7割に当たる184園が預かり保育を実施、約7千人が利用している。
林市長は「横浜市では幼稚園の多くに預かり保育に協力してもらい、待機児童ゼロへの取り組みに貢献してもらっている」と無償化の制度設計の対象に加えるよう、強く要望する。
政府は一部を除き、認可保育所の平均保育料と同水準の月約3万5千円を上限に認可外保育施設利用者にも一定額を補助する形で検討しているが、幼稚園預かり保育のほか、延長保育や一時預かり、事業所内保育所や病児保育など対象範囲の具体的な線引きは専門家会議の議論に委ねられる見込みだ。
市こども青少年局も「幼稚園の預かり保育が有料となれば、無償の保育所に入所希望が殺到し、待機児童が増えることにもなりかねず、待機児童対策に逆行してしまう」と説明。市独自の基準で設置している横浜保育室と合わせて補助を求めている。