(写真・琉球新報社)
【渡嘉敷】渡嘉敷村で唯一、一人追い込み漁を素潜りで50年余続けている80代の現役ウミンチュ(海人=漁師)がいる。島の人から追い込み漁の達人“タケミーヤッチー”と呼ばれる渡嘉敷漁協組合員の新里武光さん(80)だ。人口約700人の島で沖縄の伝統的な「追い込み漁」を守り続けている。
新里さんは、カツオ漁の船長だった父親の故武治さんの影響を受けて育った。30歳のころから本業の合間に趣味で一人追い込み漁を続け、同村の国立沖縄青年の家職員を20年前に定年後、専業の漁師になった。妻の勝子さん(72)が営む食堂のおかず調達も兼ねる。
船は大型サバニと小型船の2隻を所有。漁は「ドゥ(自分)チュイ(一人)アミン(網)ジケェー(使う)」といい、文字通り、一人で船を出し、ウエットスーツ、マスク、足ヒレ、重りを着け、海に潜って網を仕掛け、魚を追い込み、網を船まで揚げる。肉体的にも精神的にも想像を絶する過酷な漁だ。
サンゴ礁に囲まれた島の海底は、至る所に亀裂が走っている。高さ1.8メートル、長さ30メートルの刺し網を持って海底まで潜って、網を広げて両端をサンゴ礁の岩に固定する。網の重りを海底にしっかりと固定し、準備完了だ。
潮が引くと、魚はサンゴ礁の深い割れ目に集まる。新里さんは思い切り息を吸い込み、水深7~8メートルの海底まで一気に潜る。イラブチャー、エーグヮー、クスク、カタカシなどの群れを静かに網に誘導すると、全速で追い込んでいく。
一度潜ったら、魚が網に掛かるまで2~3分は息継ぎをしない。1日に6~7回仕掛け、水揚げ100キロ余りの時もあるという。
新里さんは、貝、タコ捕りも名人だ。漁中に海岸にいる野生ヤギを1人で捕まえることも。しけなどで海に出ない時は、花の植栽など地域のボランティア活動なども行い、とかしきマラソンの75歳以上の5キロの部で優勝したこともある。住民も「とても80歳とは思えないスーパーオジー」と感心しきりだ。
島の生徒や交流の家研修生らにも追い込み漁を指導している。「体の続く限り、地域の皆さんのために漁を続けていきたい」と笑顔を見せた。(米田英明通信員)