報道陣の質問に答える翁長雄志沖縄県知事=24日午後、県庁
(写真・琉球新報社)
沖縄県の安慶田光男前副知事による教員採用試験への口利きと教育庁幹部人事への介入で、副知事が23日県庁を去り、県教育庁は翌24日に疑惑を認定した。激震が走る県庁の今後を展望する。
「弁護士から言われたのは、記事内容は具体性がないと。時期も時間も指定されていないと。そして匿名の人だと。こういうものしかない」。安慶田副知事(当時)は疑惑が発覚した当初、強気だった。18、19日と連日報道される自身の口利きや人事介入疑惑を巡り、匿名証言であることや詳細情報にも乏しいと指摘し、自身の潔白を繰り返し強く訴えた。
20日の記者会見でも安慶田氏は教員採用試験などへの介入を全面否定し、続投の意思を表明した。県幹部は「副知事本人が否定し、教育庁の調査でも『やっていない』という結果だった。そのような事実はないということだ」と述べ、早期に“幕引き”をはかりたい意向をにじませた。
安慶田氏が重視していたのは「物証」だった。記事では受験者名を書いたメモを教育庁幹部に渡して合格を依頼したとあるが、メモや受験者名が公になっていないことから、物証なき“告発”の影響は限定的と見ていたようだ。
■「否定」調査に異議
だが状況が一変したのは21日。匿名で証言していた教育庁元幹部が一転して実名での証言をほのめかした。
一部報道で情報提供者の元幹部が、教育庁の「否定」調査に異議を唱えた。実はこの日、諸見里明前教育長がそれまでの証言を翻して、安慶田氏の口利きを認める証言を公にすると教育庁に示唆した。
平敷昭人教育長「委員会などで発言するのか」
諸見里前教育長「どうしようかな。場合によっては何らかの形で表明するかもしれない」
安慶田氏にとり、実名での暴露や県議会への証人喚問などがあれば、さらなる混乱は避けられない。知事周辺にあった「(新聞の情報提供者が)実名で出てこられたりするようなことがあれば、議会対応などで(翁長県政は)厳しくなる」という懸念が現実のものとなったのだ。
21日午後6時すぎ、安慶田氏は弁護士を通して翁長雄志知事に辞意を伝達し、週明けの23日に正式発表した。短期間で対応が一転し、県政の混乱ぶりが浮き彫りになった。
安慶田氏辞職を発表する翁長知事の記者会見は県庁内で中継された。多くの職員が仕事の手を止めてテレビ画面に見入り、県庁内部に走った衝撃の大きさを見せた。
24日には県教育庁が改めて記者会見し、安慶田氏の介入があったとする前教育長の書面証言が公表され、県政への不信感を高める事態となった。
■水面下の交渉役
一方、非公式や水面下の交渉も含めて経験が豊富な保守系のベテラン政治家で、辺野古新基地建設問題や沖縄関係予算を巡り菅義偉官房長官ら政府側と渡り合ってきた側近の安慶田氏を失うことは、翁長知事にとって大きな痛手となった。
これまで翁長県政は、知事が表舞台に立つ形で政府を強く批判し、辺野古新基地建設の見直しを迫りつつ、安慶田氏が菅氏らとの水面下の交渉チャンネルで政府に打開策を働き掛ける“役割分担”をしてきた。
県幹部の一人は今後の県政の体制再構築について「全く白紙だ。安慶田氏の代わりの役割をできる人がいるのか」と頭を抱えた。
知事周辺は「県政にとって辺野古の問題は『絶対に譲れない一線』だ。一方で安慶田氏は県政の立場を維持しつつも、政府と押したり引いたりの交渉をし、複数の選択肢やシナリオを白紙から議論した上で、『持ち帰り、知事と相談する』という形で交渉を引き取ってきた」と解説する。
安慶田氏の“代役”がいない中、知事周辺の懸念は「知事は安慶田氏のような『ナンバー2』ではない。政府と直接交渉すれば最高責任者として決断を迫られる。『持ち帰り県庁で議論する』『支持者に相談する』などと応じれば、一気に足元をみられる」という点だ。
辺野古新基地建設の埋め立て工事の初段階に当たる護岸工事は3月にも迫る。一方、政府が工事を続けるために必要な県の岩礁破砕許可は3月末に更新時期を迎え、県の対応が注目される。安慶田氏不在の県政は重大な節目を迎える。
知事周辺は「体制を立て直すまでの間、政府との関係は『直球勝負』にならざるを得ないだろう。向こう(政府)もそのつもりで仕掛けてくるはずだ」と固唾(かたず)を飲んだ。
(滝本匠、島袋良太)