パティ・スミス インタビュー 「今日はみなさんに贈り物を贈らせてください」
-今回のツアーについてお伺いします。昨年発売された『バンガ』のツアーですが、『バンガ』の中に日本へのメッセージを込めた『フジサン』という曲がありますし、ツアーの始まりも被災地の仙台から、またパティさんが行きたかったという広島でのツアーも予定されていますが、今回のツアーについてひと言お願いします。
パティ・スミス まずみなさま今日は集まってくださってありがとうございます。今回のツアーを組むにあたりまして、訪れたことのないところも訪れたいという思いがありました。広島というのは個人的な理由からいれました。これについてはあとでまた話したいと思います。仙台は今回のメンバー全員がそこでやりたいという思いがあり、入れてあります。今回のツアーを通して募金を募りたいと思っています。そこで集まったお金は全て仙台の学校に寄付して、復興の一部とさせていただきたいと。つまり我々にできることをやらせていただきたいと、そういう思いがあります。
このツアーを通して日本のみなさんの様子、また行ったことのないような場所というのも拝見したいと思っております。そして先ほどご紹介がありました『バンガ』というアルバムに入っている日本の方々へ捧げた曲『フジサン』なんですけれども、富士山というのは山であり自然の象徴であることから、あの3.11からも見守っていてくださいという、願いの歌でもあります。辛い震災後というのが、まだ続いているわけですが我々の心もみなさまとともにあるということ、全ての方にお見舞い申し上げたいという、そういう願いが込められた曲です。
-続いては本のことについてお聞かせください。『ジャストキッズ』をちょうど合わせて発売されましたが、パティ・スミスさんはこの本を若い世代に読んで欲しいとおっしゃっていました、また当時を知る世代にも単なるノスタルジーを感じるだけでなく、読み手がまさにジャストキッズだったころを思い出させてくれる本です。本についてお聞かせください。
パティ・スミス この『ジャストキッズ』がこのタイミングで日本で発売されることを本当に嬉しく思っています。とても素晴らしいデザインで装丁も含めて非常に美しい仕上がりになっていると思います。不況のなかそれぞれの道に悩んでいる方も多いと思うんですね。この『ジャストキッズ』という本の中では、様々な問いかけ、道探し、あるいは苦労、セクシャリティであったり宗教観であったり、経済観であったり、そういった悩みに触れていますし、またアートであり友情、愛情の物語でもあるので、読んでいただいて気に入っていただけたらと思っています。もちろん自分と同世代にも読んでいただいて、振り返っていただいて、我々が成し遂げたことはなんだったのかということを、考えるきっかけを与えられる本になっています。
-作詞家であり、詩人でもあるあなたが、アルバムと本を出しました。リリックとポエムはあなたにとってどう違うのか教えて下さい。
パティ・スミス 誰に対して伝えたいのかということが違うのではないかと思っています。詩というのは秘密の言葉ではないですが、謎めいていたり、ワードプレイがあったりとても複雑な構造で、ときには解釈するのが難しかったりするんですよね。実は詩を書いているときは、誰に対して書いているか、誰に読んでほしいかということはあまり考えていません。それは深く詩の方に気持ちがいっているからなんですね。
歌詞というのはそれとは違いまして、責任があります。もちろんアーティスティックな責任もありますし、曲を提供したミュージシャンに対しての責任もありますが、特に誰に対して届けるのかという、聞き手が大切なんですね。彼らに対して強く響く歌詞でなければいけない、彼らの前で私はパフォーマンスをするわけだからということで、もっと直接的なインスピレーションを直に与えられるようなそういうものではないかと思っています。詩的な部分もありますけどね。歌詞というのはネコじゃないですけど、ちょっと気むずかしいところがあると思っています。
-今回発売された『無垢の予兆』という詩集は、どのようにまとめられたんでしょうか。
パティ・スミス 元々のタイトルはご存知の通りウィリアム・ブレイクからとられているわけですけれども、そのなかでイノセンスというのは美しいものであるが、外的な力によって滅ぼされるということを言っています。このテーマを語るなかで多分一番、わかりやすいのは自分の子供時代、父が道で待っているそこまで歩いて行くという詩があったんですけれども、つまりそういう核にあるイノセンスが、様々なことによって邪魔されたり、小さい頃の出来事から影響を受けてしまうということが描かれている。なかには14歳の少女がレイプされる詩、若くして亡くなってしまった主人の詩、ヴァージニアで起きた高校の銃乱射事件、30人くらいの人が命を落としたと思うんですが、それをテーマにしたもの、偉大なアーティストが若くして自殺してしまったことをテーマにしたり、愛すべきホームレスの方が命を落としたということをテーマにしたり、全てがある意味でのイノセンスの喪失なわけですね。
イギリスで伝染病がはやったときに子羊をまとめて処分してしまったということがありまして、それもまた非常に面白いメタファーなものであると思いました。そういう外的なものによって滅ぼされるものではあるんですが、自分がただ客観的だからだと思うんですね。『ライターズソング』という非常に普遍的な詩篇を納めています。書くほうが死ぬよりもずっとマシだ、書いて酒を飲もうじゃないかという内容になっていて、バンザイバンザイバンザイと、つまり最後にはアートが勝利したそういう完結を迎えているのかもしれませんね。
-広島には特別な思いがあるとおっしゃっていましたが、その特別な思いというのをお聞かせください。
パティ・スミス 自分は1946年生まれ、つまり第二次世界大戦後の生まれです。父は米軍として日本と戦ったんですが、原爆を広島、長崎に落としたときに大変胸を打たれまして、まさにこれが人間の非人間性を象徴するような行動であるというふうに、このことをずっとひきずっていました。自分にも若い頃からその話しをしてくれて、例えばLIFE誌の特集を見せながらその話をしてくれたり、「自分の中では自分の国がそんなことをするなんて!」という信じがたい思いがありました。幼心に父にも言ったんです。「広島にいつの日か行きます」と。そこで「sorryと私は言ってくる」と。非常に時間はかかってしまいましたが、父の代わりも含めまして広島の名地に行きまして、祈りを捧げたいと思っております。私のソウルを通してsorryという祈りを捧げたいと思っております。
-写真家としてメイプルソープさんに影響を受けたことはありますか?それから9.11がパティ・スミスさんに創作家として及ぼした影響を教えて下さい。
パティ・スミス まず最初ですが、ロバート・メイプルソープは人として私に一番影響を、インパクトを与えてくれました。いまの自信を培うことができたそんな存在です。しかし写真家としてはどちらかというと、19世紀アマチュアの写真家たちに影響を受けていると思いますので、あえて言うならルイス・キャロル、マーガレット・キャメロンといった方に影響を受けた、自分で見ても19世紀っぽい雰囲気があるのではないかと思うので、美観というかね、美的感覚というのはあまりロバートからは影響を受けていません。
2つめの質問は非常にいい質問であり、複雑な質問でもあるのでなるべく答えは簡単にしようと思いますが、当時の私の展覧会は9.11の反応を形にしたものでもあるのですが、アメリカという国が9.11でどこに反応するかというのを見ていたという部分もあるんですね。なので9.11後のアメリカの視覚的なアイコンという面も強く打ち出していったんですが、そのなかにテキスト、聖書とコーランのものを混ぜるようにしてですね、使っています。このメッセージというのは、いかにしていま一緒になにかできるかを模索するべきであり、これを契機に戦争など決して起こしてはいけない、復讐など決して求めてはいけないんだという、そういうコミュニケーションをいまだからこそ、起こさなければいけないそういう思いが込められていたんですね。それを表現せざるをえなかった、そういう部分であります。
そして若い世代のアーティスト、みなさんそうだと思うんですが、我々の世界が腐敗し壊されていく、あるいは崩れていく価値観のなかで「なぜ自分たちが創るのか?」そういう問いに苦しめられている人もいると思います。日本であれば未来が不安定に思われて、不安に思うのかもしれない、とはいえですね「レコードをなぜ作るのか、誰も買っていないのに」「本をなぜ作るのか、読み手が減っていってキンドルでしか読まれない、キンドルですら読まれないかもしれないのに」と自問した時点でも、我々は作らなければいけない、どういうことかと言いますと、これはギフトなんですね。自分たちに贈られた才能なのだから、感謝しそしてそれを使わなければならない、人々にそれを通してインスピレーションを与え、慰めを与えなければならない、だからこそ使わなければならないわけで、アーティストがものを作るというプロセスはアーティストのものかもしれないけれど、結果はみなさんと分かち合えるものである。ですから、ものを作るということはですね、自分のためにやることではなく、ほかの方のためにやっていることなのかも知れません。いい例がゲルニカです。ゲルニカという地に爆弾が落とされ、滅ぼされたときピカソは涙を流しました。ですが、そこから彼は偉大な反戦作品、マスターピースと呼べるゲルニカを作り上げるわけですね。
これをお手本にどんなに辛い困難な状況であっても、自分にとってですね、もしかしたらそれは恐ろしさに満ちた作品なのかも知れないけど、なにか美しいものを作る、見た人を変えるような作品を作ることをしなければいけないなと思います。
-いつも詩を書くときはどんな風に書いているんですか?
パティ・スミス 人とは少し書き方が違うかもしれませんが、どちらかというと、散文の方が詩よりも多いんですね。詩を書くには非常に長い時間集中しなければいけないし、一人の時間が取れないと書けないんです。逆に楽曲の詩は電車の中であっても書けるんですね。それから散文は本当にナプキンの裏だったり、本当にいろいろなものに書いています。毎日なにかしらの日記に綴っていますし、場所はバスルームから本当にどこでも書けるんですが、家にいるときはコーヒーをのみに行ってそこで書くのが本当に好きです。移動中であったり、ツアー中の時差ボケで夜中の3時に起きてしまったりして書いたりっていうこともあるんですが、本当に完成作品って呼べるものまで持っていくためには、一人の時間というのが取れないとできないので、ツアー中はなかなか難しいですね。書く状況として一番いいのは、朝コーヒーを飲みながら、ペンを使ってですね。
-パティ・スミスさんはファッション界にも大きな影響を与えていて、数々のブランドがパティ・スミスさんの影響を受けていますが、そうした存在であることについてはどう思われますか?
パティ・スミス やはりそれはすごく嬉しいことですね。ファッションは非常に美しいハイアートだと思っていますから、そういう方々から評価していただけるのは嬉しいし、自分も洋服が大好きで、小さい頃から様々な人のものづくりに影響を受けてきました。聖堂であったりお寺であったり詩篇であったり、書籍だったり、音楽だったり、コルトレーン、ヘンドリックス、村上春樹と様々な人が存在していることが、ハッピー・幸せなわけですね。彼らのおかげで人生がエキサイティングであるから、そうした人がいるのは非常に嬉しいことです。だからこそじぶんが何かギブバック、返せることがとても嬉しいし、若い方も含めほかの人がどんなものづくりをしているかは、いつも興味があります。
自分の詩篇やものづくりについてたくさん聞いてくださったので、それについて少し話しつつやはり、言葉だけではなく音楽を通して伝えることが重要だと思っていますので、曲も披露したいと思います。最初の曲は娘に対して歌った曲で、全ての子どもたちに対しての思いを込めて歌っています。この曲は歩いているときについ口ずさんでいるなかでできたんですね。本当に珍しいことなんですが、言葉が降りてきたというか、贈り物であったと思います。今日はみなさんに贈り物を贈らせてください。
この後、まず1曲披露
パティ・スミス そしてもう一曲。もともとこれは叙事詩として作ったものに夫が曲をつけてくれたものなんですね。個人の強さを歌った曲なんですが、政治的なこんなんやそうした事態にあったときこそ、いかに人の集まり、個の集まりがそれを変えていくことができるのかということを歌った曲です。
そして2曲目を披露した…
(撮影/高田崇平)
パティ・スミス著『無垢の予兆』
訳:東玲子/A5判変形/発行日 2012年12月21日
発行:アップリンク/発売:河出書房新社
本体価格:1,905円(税込2,000円)
ページ数:160P
ISBN:978-4-309-90971-4
パティ・スミス著『ジャスト・キッズ』
訳:にむらじゅんこ、小林薫/四六判/発行日 2012年12月21日
発行:アップリンク/発売:河出書房新社
本体価格:2,380円(税込2,499円)
ページ数:472P
ISBN:978-4-309-90970-7