09年、パリにて初演。フランス発の『ロックオペラ モーツァルト』が、このたび、日本人キャストによって上演。
主人公のモーツァルトと宿敵サリエリには、シンガーソングライターで俳優の中川晃教さんと、俳優の山本耕史さんのダブルキャスト。
若くして名声を得た天才作曲家と、その才能に嫉妬する男、その両極端な二役を、中川さんと山本さんが交代で演じ、全公演出演する。
また、中川さんは、約10年前、ウィーン版の『モーツァルト!』で初舞台を踏んだ経験があり、今回、奇しくも同じ人物を演じることに。
「俳優としてではない、アーティストとしての自分の感覚を信じてぶつかります」
と、音楽家としての自分を強く意識している。
公演前に行った本誌インタビューでは、日本ミュージカルとして、二役を演じる苦労と攻略方法、そして将来の夢を語ってくれた。
なかがわ・あきのり☆
’82年11月5日生まれ、宮城県出身。2001年、自身が作詞・作曲した『I
Will Get Your Kiss』で歌手デビュー。’02年、初出演ミュージカル『モーツァルト!』で、読売演劇大賞優秀男優賞などを受賞。『SHIROH』(’04年)、『エレンディラ』(’07年)などの舞台で主演を務める。近年は、NHK大河ドラマ『天地人』に出演。昨年は、ポップスとクラシックを融合したアルバム『POPSSIC』をリリースした。
舞台『ロックオペラ モーツァルト』
演出/フィリップ・マッキンリー
大阪公演/2月22日(金)~24日(日)、梅田芸術劇場メインホールにて上演。
-『ロックオペラ モーツァルト』の公演もいよいよ1カ月後に開幕します。今回は、モーツァルトとサリエリの二役に挑戦ということで、役づくりはどのように行っていますか?
「今回は、まっさらな状態で稽古場に入りました。4、5年前、知人から今、フランスで『ロックオペラ モーツァルト』がヒットしていると聞いたことがありました。また僕自身、ミュージカルのデビュー作がウィーン版の『モーツァルト』だったということもあって、『モーツァルト』という作品にとても敏感になっていたんです。今回、資料としてフランス版の作品のDVDなどももちろんありました。でも、どういう演出なのか? どういうナンバーか? 役の捉え方は? といったところまでぜんぜん考えていませんでしたね」
-実際、稽古に入って、中川さんが考えるキャラクターの捉え方と演出家の求めるイメージと違いはありましたか?
「今回、山本耕史さんと僕が、交代でモーツァルトとサリエリの2役を演じます。そういうなかで、僕が一つ決めていたのは、モーツァルトはセクシーに作るということでした。物語は、モーツァルトが17歳くらい、まだ子どもっぽさもあるころから始まって、病で亡くなる35歳まで大人へと成長していきます。当初僕のなかでは、傲慢なモーツァルト像というものがまったくなかったんですけど、演出家のフィル(フィリップ・マッキンリー)は、『モーツァルトは子犬のようでもなく、弱い部分が一切ない男』と言うんですね。ですから、今は、少年時代から傲慢な部分を見せつつ、男らしさ、セクシーさを見せたいと思っています。みなさまには、初舞台の『モーツァルト』から、さらに成長した『モーツァルト』を見てもらうことができると思います」
-一方、サリエリ像はどういうものにしたいと思っていますか?
「サリエリは、狂言回しのような役どころも担います。モーツァルトと対峙する影の部分でもあるので、まず、耕史さんのモーツァルトを見た上で、僕自身のサリエリ像を作りたいと思っています。耕史さんのモーツァルトは、おそらく、天真爛漫ですごくはじけたキャラクターになるのではないか、と。サリエリのなかで、はじけた男に対峙する自分自身の陰の部分を出せたらいいなあと思っていました。でも実際、稽古が始まってみると、今回、何よりもやるべきことは、アクターとしてではなく、アーティストとしての僕自身の感じる部分をより強く両方の役にぶつけるべきだと思ったんです。まさに“ロックオペラ”というタイトルが付いているように、力強く、情熱的に。演出家のフィルが求めているモーツァルトとサリエリ像は、どちらもすごく情熱的な男なんです。モーツァルトはどこまでも自由で何でも受け入れる。それに対して、サリエリはすごくlock outしている人間で、自分自身の中に何も入れない。このまったく違う2人、でも、どちらも同じぐらいの情熱を持っているんです。この作品は、既存のミュージカルとは全然違う、ある部分、ロックコンサートのようなスケール感でお客さまを圧倒すると思います」
-音楽で魅せる部分も強いんですか?
「あとは、僕自身、ミュージシャンだからこそできる、役の捉え方ってありますよね。耕史さんもそうです。俳優でありながら、音楽をやっている人間だからこそアプローチできるそれぞれの役の捉え方というものがあり、それを信頼したほうが、この作品を形にする上で分かりやすいと思うんです。芝居のリアリティーとかは、この際、関係ない。そうどこかで言えてしまうような瞬間というのが多々感じられるんですよね。それが今回、『モーツァルト』の音楽のアグレッシブな感じ、ロックな感じともリンクしてきているような気がします」
-約10年前、中川さんは、ミュージカルデビュー作で、『モーツァルト』を演じています。でも、お話を聞いていると、今回、まったく違う作品になりそうですね?
「そうですね。僕は、まったく違うものだと思います。ヴォルフガング(モーツァルト)を演じるのは2回目ですが、これまで、僕が演じてきたことのない役をやっている感覚ですね」
-また今回、山本さんと中川さんが、交互に役柄を入れ替えて演じるというところは、最大の見どころだと思います。最初、この作品をやると聞いたとき、どんなお気持ちでしたか?
「それが何より面白いと思いました。僕は役者だけではないから、音楽の活動をしているアーティストとしてもやりがいがある、とも。ご覧になるお客さまが、“また観たい、聴きたい”という強烈な期待に応えられるだけの作品になると確信しています。二人で演じわけていくことがどれほど大変なのかは想像がつきました。でも、お客さんの立場で、二度美味しい、いや、もっともっと美味しいという感覚なんです。また僕自身、音楽家として真正面からぶつかることのできるカンパニー、共演者にめぐまれ、これまでにないコンセプトで始動した作品だと思います」
-作品としての見どころは?
「この作品の面白いところは、物語の主軸はモーツァルトであるということです。これはフィルの演出で、“モーツァルトの頭の中のサリエリとして登場している”というシーンがあります。でも、サリエリを演じるとき、‘モーツァルトの中のサリエリ’と思って演じるように言われていない。今の時点では、そこの解釈は自由だと思うんです。サリエリは、モーツァルトという人間の傲慢さと、どれだけ甘やかされて育てられたか、その結果、こんな男になってしまった、と。“お客さん、見てください!”とオーディエンスと対話する。そして、モーツァルトという人間を説明しながらも、そこに自分の考え方、自分の感情がムクッと出てくるんです。モーツァルトという人間がいたことによって自分自身が影になってしまった。“おまえなんかと出会わなければ、俺はもっと違ったんだ”という嫉妬や苦悩が、あくまでもロックとして、情熱となって歌になり、存在となっているんです。それを二人がどう演じていくか? この『モーツァルト』ならではの魅力があると思います」
-二人で交互にダブルキャストで演じるうえで、いちばん苦労していることは?
「モーツァルトのシーンを演出しているとき、演出家は同時にサリエリに対しても言うわけですよ。僕たちは両方の役をやるので、サリエリのことを言われたら、モーツァルトとしてサリエリのことも聞いてくれ、と。また、サリエリのことを言っているときは、モーツァルトのことも聞いてくれ、と言われます。でも、僕はそういう切り替えがなかなかできない。たとえば、山本さんが演じているとき、ダメ出しされたり、プランが変わったりしたことは、僕に対しても言っていること。“アッキー、もう1回繰り返す?”と確認されるけれども、それをやってしまうと、僕自身、たいへんな目に遭いそうな気がするんです(笑)。だから、その場ではとりあえず情報として聞いておいて、自分はサリエリモードのままでいる、と。そして、明日そのシーンをやるとき、昨日言われたことを思い出して、モーツァルトとして初めてやるような感じですね。稽古は同時に進むので、どちらの役に対しても100%の力でやっていると大変なんです」
-中川さんはいつもそういう取り組み方をされるんですか?
「といいますか、その取り組み方を耕史さんから学びました。“フワーっとやればいいんだよ、アッキー”って言ってくれたんですよ。耕史さんはすごく器用だし、演出家の求めていることにすごく的確に応えられる人。ある部分、演出家の目を持たれている俳優さんだと思うんですね。今回、ご一緒させていただくと聞いたときから、パートナーとしてすごく信頼していましさた。実際、演出家が求めていることを瞬時にキャッチし、僕よりも数段、器用に応えていて。対して僕は、すぐ応えられず、もどかしかった。そうしたら、耕史さんがコツを教えてくれたんです。“リラックスしてたほうがいい。モーツァルト、サリエリ、それぞれの役に100%の力でぶつかっていたら、絶対にできないぞ”って。そう言われて、逆に気づかされたんです。僕自身、1つの役に対して、グワーっとのめり込んで、100%、120%向き合うタイプなんだなあ、と。ふだんはその方法でやって、その結果、見えてくるものは確かにあります。でも、耕史さんは、それだけじゃないものを見せてくれたんです」
-自分のことを知る機会になったんですね。
「そうですね。僕自身は、絶えず、自分のなかにある答えとか、自分が持っているものに満足したくないタイプで、自分の限界までいってしまう。でも、そういう方法もときにはうまくいくのかもしれないけれど、そればかりではダメなんですよ。演出家が求めているものが、自分にはない。でも、作り出そうとする余裕や客観的な目を養うことも、役者には必要だとわかったんです。そして、耕史さんのように、役者として瞬時に応えられる俳優に、また、フィルが求めているような俳優になりたいという思いも、自分自身への課題として課すことができました」
-中川さんはとてもストイックなんですね。
「高い壁を課せられても、飛び込むことを忘れちゃいけないと思っているんです。でも、それはすごく苦しいし、嫌なんですよ。今回に限らず、その前も、前の前もそうだった。もう、毎回苦しいんです(笑)。誰かにそれを嘆きたいけど、誰も聞いてくれない。“むしろ、それはいいことだ”と言われてしまうんです」
-そんなとき、どのように乗り越えるんですか?
「僕は、プロセスが嫌いなんだと思います。でも、そこを通過したとき、必ずそれだけの何かを得ているんです。だから、周りの人たちは、僕の嘆きや愚痴を聞きながしてくれているんだと思います。だけど、こうしていま、この作品をやっていると、“この先にも、何十倍もプレッシャーを感じて、何十倍も苦しいものが、もっとあるんだ”といった、いままでに味わったなかでも、まったく異なる苦しさで辛いんです(笑)」
-ミュージカル歴も10年以上、中川さんご自身、舞台の仕事は、自分のなかでどのような位置づけなんですか?
「僕自身、なんでこんなにミュージカルをやるようになったのかが不思議なんです(笑)。でも、僕のなかに揺るがない感覚というか、自分でやると決めて歩んできました。若いときは、何でもできる!という勢いがあったし、だからこその経験がありました。30歳を過ぎて、自分の目標や夢がミュージカルと大きくかけ離れているものか?と考えると、そうではないんですね。音楽で人を感動させて、音楽のなかで物語る。そういうミュージカルの経験から、‘伝える’こと、‘見せる’ということをエンターテインメントとして考えられるようになったんです。僕自身が得たことによって、僕の作る音楽、歌も成長してきたと思うんです。じつは、世界で活躍する音楽家の多くが、ミュージカルを作っています。U2のボノが『スパイダーマン』の音楽を担当していたし、『ターザン』の音楽をフィル・コリンズが、『ライオン・キング』の音楽をエルトン・ジョンが作りました。音楽家がミュージカルを作るというのは、音楽家にしかできない‘音楽によって物語る作品を表現する’、一つの才能の極みなんじゃないかなと思うんです。デビューしたとき、自分がまさかミュージカルをやるとは思っていなかった。でも幼いころから、“いつかミュージカルを作りたい”と思っていたんです。そう思うと、ミュージカルをやること、いつか作ることは、自分が目指すべき目標であり、一つの夢になるんじゃないかなあと思います」
-ミュージカルを作るのが夢だったんですね。それは驚きました。
「小学生のとき、土居裕子さんという女優さんが出ていた音楽座のミュージカルで『シャボン玉とんだ宇宙までとんだ』を観たんです。両親が連れていってくれたのがきっかけなんですけど、僕は“ミュージカルに出たい!”という思いよりも、“ミュージカルを作りたい!”と思ったんですよ。たぶんそれは、僕が音楽をやっていたからなんです。いま、なぜこんなにミュージカルをやっているのか? と思ったとき、やっぱり、そこに行きつく。音楽家として自分のミュージカルを作るという目標があるから、いろんな作品、いろんな系統のミュージカルをやっているんだ、と。僕は5年ごとに目標を立てるようにしています。30歳になってから5年間の課題・目標は、“自分の中の課題をクリアして、自分の中でチャンスを作って、それをクリアしていく”。つまり、自分から行動的になっていくための5年間にしたいんです。そのためには、この10年間に経験してきたことを、今度は自分の表現としてちゃんと形にしていきたい。そのためのミュージカルなのかな、と今は思っています」
-今回、中川さんのファン、ミュージカルファン、音楽ファン、いろんな方が観に来られると思います。みなさんにメッセージをお願いします。
「モーツァルトとサリエリ、二人の男が最後に何を互いに見つけるのか? そして、二人の最後のナンバーのなかに、お客さんが最後に何を感動として得るのか? これが今回のミュージカルなんだ! と感じてもらえる、いちばんの見どころはそこにあると思います。僕たち俳優は、お客さんと一緒に上演時間を生きてるんです。だから、お客さんに本編の最後のナンバーのなかで、モーツァルトとしてサリエリとして僕たちは確実に何かを達成しているんですね。音楽で語られる部分、それと役者がその音楽を体現して生きている時間の中で、お客さんも一緒に味わっている時間がある、そしてラストがある、そこにミュージカルの一番いい形だと思います。また、ロックオペラと謳っていますから、ロックミュージカルとはまた異なる、オペラの要素もあるし、フランス発の作品なのでフレンチポップスの音楽の魅力も感じてもらえると思います。それと、衣装。今回のポスター衣装は、フランスの巨匠、Jean-Paul GAULTIERのデザインです。また、劇中の衣装は、ディテール一つひとつにこだわっています。モーツァルトが生きた時代のコスチュームを反映させているだけではなくて、『ロックオペラ モーツァルト』のロックという部分がファッションのなかにも表われている。まさにファッションシーンにもセンセーショナルとなるような衣装です。それから、個人的にはAKANE LIVさんのアロイジアを観てほしい。いいですよ!アロイジアのナンバーが不思議なキャラクターの音楽性なんですよ。不思議な魅力と彼女の持っているポテンシャルがすごくピタッと合っていてすばらしい。高橋ジョージさんも最高ですよ。完璧! 初舞台ですけど、ご本人は“ミュージカルが大好きです”って言ってました」