一生分のプレゼントと引き替えに手に入れたドラム
カフカにとってあまり思い入れのないように見えるアルゼンチンだが、数年越しの交渉の末、両親に初めてドラムを買ってもらった地はアルゼンチンだった。
竹本「念願かなってドラムをやらせてもらえるようになった経緯やエピソードを聞いてもいいですか?」
カフカ「10歳の時に(ドラムに)惚れて、14歳で始めているんですけど」
竹本「4年間もご両親にネゴシエーションしていたんですか」
カフカ「『プレゼント何がいい?』『ドラム』、『どこに行きたい?』『ドラム叩きに行きたい』みたいに、何か訊かれたら全部ドラムって言ってたんですよ。私はこんなにドラムがやりたい、バイオリンは1年で飽きたけど今回は絶対違う、こんなに衝撃を受けたことはないんだ、と懇々と説得し続けましたね」
竹本「すごい」
カフカ「アルゼンチンに引っ越してからは、友達もできず、家で過ごすことが多くて。そんなある日親に呼ばれて、『これからお小遣いもプレゼントも一切なし。それでもいいならドラムを買ってあげる』って言われて。たぶんまだ信用がなかったんですよね。そこまでのリスクを負ってでも欲しいのかと訊かれて『全然いいです』と。それ以来本当にプレゼントもらってません(笑)」
竹本「ちっちゃい頃に4年も信念を曲げずにいられるのがすごいですよね。ドラムがかっこいいと思ったきっかけが、音は聞こえるのに前には出てこない縁の下の力持ち的なところに惹かれたっておっしゃってたじゃないですか。私が10歳の時なんて、そんなかっこいい考え方なんてできなかったから、そういうところをリスペクトしちゃいます」
カフカ「目立ちたいタイプではなかったですね。学園祭でも裏方をやってたんですけど。でも、その影でインカムつけてる姿はちょっと見てほしいなっていう(笑)。影の美学というものをずっと持ってましたね」
竹本「渋い子どもですよね(笑)」
カフカ「表に立つ側じゃないけど、見てほしい。そういうところにドラムという楽器の立ち位置がぴったりリンクしたんです」
竹本「自分を自分のまま表現する方法を見つけるのって人生の中ではいちばん大きな課題だったりもするのに、それを魂まで表現できるツールを10代で見つけられたのはすごいですよ。早い!」
カフカ「生き急いでる感じですかね(笑)」
③に続く
たけもと・ゆみこ
H.P.FRANCE AMERICAS本部 南米事業部アルゼンチン・プロジェクトマネージャー。
H.P.FRANCE BIJOUX WINDOW GALLERYのディレクション、銀座・hpgrpビルの企画などを手掛けた後、Americas本部 南米事業部にてアルゼンチン・プロジェクトを担当。ブランドの育成と同時に、デザインを通したアルゼンチンのプロモーション活動に取り組んでいる。昨年出産し、4月に復職したワーキング・マザー。