連載第42回(最終回)アメリカ人の親は、我が子の職種&仕事選びでどんなアドバイスをするのか?
おかげさまで1年半続いた連載も今回の原稿で無事最終回を迎えました。
振り返ると、我田引水ですが、ユアサの友人たちの間で予想外に好評だったのが、「アメリカ人の親が子どもに抱く期待」をテーマにした回でした。こうした教育問題を原稿にできるのは、アメリカ人親子の心情の奥底を知るまでにユアサ個人がアメリカ社会での長年の人生経験を積んできたこと以上に、ひとりの人物のおかげなのは明白と言えます。
昨年88歳で亡くなった、国際弁護士ユアサの最愛の母、潮子(ちょうこ)は、17年間にわたり病を得て床に臥せたままとなる以前は、長年、公の職としての教育相談カウンセラーとして幅広く大活躍し、『週刊時事』の長期にわたる連載やテレビインタビューなども受けつつ、日頃、ユアサに、あらゆる教育問題に関する薫陶を与えてくれました。
最高にやさしい人柄として多くの人々に記憶される母の信念は、世の中でいちばん素晴らしい仕事は、人への教育だ、というものでした。
その点をアメリカ社会で分析すると、キャロライン(・ケネディ駐日アメリカ大使)がニューヨーク市の公立学校教育問題に長年、甚大なる努力を捧げてきたように、アメリカでも教育に携わる職業への尊敬は極めて大きいのです。
他方、ロックフェラー家など資産家による教育慈善事業への寄付も、世界が驚くほど桁違いに巨額です。この点も、アメリカ社会全体の教育に懸ける情熱が、半端なく堅固に確立しているという大前提があってこそ、初めて成り立ち得るシステムなのだと言えます。
さて、今回は、アメリカ人の親が我が子へ送る、仕事や職種をめぐるアドバイスについてみていきたいと思います。まず、全体図を浮かび上がらせるために、様々な職種に関するアメリカ社会での位置づけに関して考えていきましょう。
身近なところで、ウォール街の銀行法を専門とする国際弁護士ユアサの視座から言うと、ウォール街のバンカー(銀行家)たちは、我が子に自分と同じバンカーになってくれとは思っていません。そもそもバンカーは長所と短所の両面を持つ、とウォール街では見なされているのです。
短所は仕事量が膨大で時間に追われる職種だということ。反対に長所は、銀行内の仕事の幅が広いわりに、変化が激しく、飽きることがないということでしょう。
銀行の仕事に限ってのことではありませんが、今のアメリカでは何の職種であっても、我が子に自分と同じ職種を望む親は決して多くはないと思います。
たとえ同じバンカーになったとしても、できれば自分と別のジャンルを専門とするバンカーになってほしいなどと、我が子ならではのオリジナリティの付加を強く望むのです。
法律家や医師のような専門職は向き不向きがいちばん大切かもしれない、と専門職に就いているアメリカ人の親たちは考えています。
日本の大学入試では、優秀な学生が医学部と法学部のどちらに願書を出せばいいか、迷うということがよくあります。この話をニューヨークですると、耳を傾けていたアメリカ人の友人たち全員が決まってブーイングを始めます。
専門職は、そのことばかりを一生やっていくので、根本的にはその専門職に本人が向いているかどうかの判断は、アメリカでは完全に本人マターと言われています。アメリカ人の親の考え方としていちばんNGなことは、本人が望んでいない専門職に我が子を就かせることなのです。法律家も医師もアメリカでは競争が激烈すぎて、我が子に無理強いする親はいません。
医学部か法学部か迷うくらいのレベルの秀才はこうした専門職の世界にはいくらでもいるので、成績も適性も両方とも抜群に良くて、子どももその専門職を心から望むという3拍子がそろう以外は、我が子に強い期待をしたらに気の毒だ、とアメリカ人の親は心から思っているのです。また、それらをすべて満たしたとして、あとは本人の体力が夢を成就させるか否かが鍵を握っています。
ユアサの専門職の知人の息子は病弱でした。彼はハイスクールの1年生(日本で中学1年生)の頃から授業を休みがちとなり、何人かの友達からノートを借りてしのいでいました。やがて、知人は妙案を思いつきました。
学校の帰りに友達が家によるたびに、バーベキューをしてあげたのです。育ちざかりの彼らは喜んで毎日のようにノートを持って遊びに来て、授業の説明もしてくれたのでした。
これもまた、アメリカでは大きな意味での教育の一つなのです。
知人は息子には何も求めてはいませんでしたが、本人は医師になる強い目的意識を持っていました。しかし、余りに体力がなくて、医師になる道が自分でわからなくなっていた時期もあったそうです。
しかし、ハイスクール時代の教師に、病弱な自己経験も、患者さんの話を親身に聞く立派なお医者さんになり得る道だと励まされ、大いなる幸運も味方して、健康を徐々に取り戻した彼は、今では素晴らしいお医者さんとなっています。
さて、職種でみた場合、日本では公務員が経済的安定の象徴ですが、アメリカでは徹頭徹尾、公務員とは公共への奉仕者との考え方なので、お金もうけしたい気持ちが少しでもあるなら、官ではなくて民間の職種しかないとアメリカ中が考えています。
アメリカで教育関連の仕事が評価されることも、教育が公共的な奉仕の側面をもつことともリンクしていると言えましょう。
アメリカは官僚の職務倫理への規定が厳しいので、官僚になる人はもともとお金持ちの家が多いとさえ言われています。ですので、経済的安定のために官僚や公務員になることを勧める親はアメリカには一人もいないのです。
我が子が「商売を自分でする!」と言い出すと、アメリカではもともとビジネス界の社会全体における評価が日本社会と比べて高いので、親も本人に任せるのが一般的です。
ところで、ユアサの友人の中には文科系の大学教授もいます。彼の2人の息子のうち、兄は理科系の大学教授で、弟は西海岸の公立の高校のバスケットボールコーチをしています。友人が気にしているのは2人の仕事ではありません。弟の方が株式など投資をする時に、安定的な投資よりもハイリスク・ハイリターンの投資をしたがるので、兄の安定型投資と比べるとヒヤヒヤしていると、たまにユアサにグチっています。
しかし、ジャズ声楽家の奥さんは、息子たちにはそれぞれ良いところがあり、また仲が良いから大丈夫だろうと考えています。この夫婦の場合は、息子2人の話し合いに任せて、就職などでも口出ししなかったそうです。
以上をまとめてみましょう。
たいていのアメリカ人は、親に就職などの相談をする時期は、10代前半がひとつのピークだと言えます。
そういえば、ユアサの友人のアメリカ人弁護士は、以前は彼の10代前半の娘たちの就職への相談話をユアサにしていましたが、今はティ-ンエージャーの娘を2人持つ親の苦労がここまで大変とは知らなかった、と会うたびにこぼしています。
アメリカのハイスクールは中学と高校がつながっているので、中学生1年生の頃は親の言うことも聞くが、高校生からは子どもたちの人間関係の広がりの中で、子どもたち自身が決めていくというのが自然と思われます。
アメリカ人の親の我が子へのアドバイスは、ユアサ的に分析すると次の3段階があると言えます。
1 親子で会話するとき、親は子どもが語る友人などからの「情報」を否定せず、そのまま受けとめる。
2 そのうえで、子どもの願いをできるだけ実現する道を広く考える。
3 その時に、また「良い友人」にアドバイスを求めるように、最後に必ず釘を刺す。
これがアメリカ人の親の、子どもの就職の悩みに対する大きなスタンスです。
この段階を踏襲しなかったら、アメリカでここまで数多くの成功者は、ひょっとすれば、生まれていないかもしれません。世界中で、親の我が子への愛と教えこそが普遍なのだと、国際弁護士ユアサは断言します。
一年半もの長らくの間ご愛読いただき、読者の方々に、深く、深く御礼申し上げます。
この素晴らしい機会を与えてくださった『WEB女性自身』のますますの発展を心から祈念致します。本連載の中で、皆様の記憶に残る話が一つでもあったのであれば、それは国際弁護士ユアサの望外の幸せです。
(了)