公開中の映画『少年H』で演じた父親役が好評の水谷豊(61)。同作は、妻・伊藤蘭(58)との29年ぶりの共演、モスクワ映画祭での特別作品賞受賞など、彼にとって記念碑的な作品となった。
芸歴46年を誇る水谷だが、かつて俳優の道を離れようとした時期がある。そんな彼を思い直させた“偶然の出会い”については、あまり知られていない。
水谷は13歳で劇団に入り、2年後にデビューし、16歳のとき『バンパイヤ』(フジテレビ系)でドラマ初主演。人気俳優となったが、18歳のとき、役者人生に疑問を抱く。
「子役時代から大人に囲まれた生活を送ったことで、どこか大人たちに不信感を抱く部分もあったのでしょう。それで俳優を辞めることを決意し、大学進学を目指し、猛勉強しました。しかし結果は不合格。
目標を見失ったまま、家に引きこもる自分がいやになり、家を飛び出したんです」(テレビ局関係者)
東京・立川市の自宅を出た水谷の所持金は、たったの400円。たどり着いた高尾山で仮眠をとるが、寒さでほとんど眠れなかったという。夜が明けて歩いていると、車を運転する男性に釣りに誘われたという。
「家出してきたとも言えずにいると、釣りに付き合った後、おじさんに家に招かれたそうです。奥さんと赤ちゃんがいて、ご飯までご馳走され、お礼を言って帰ろうとすると『金、ないんだろ?』と、2千円を渡してくれたそうです」(同級生の一人)
その後、自宅に帰らず立川市内の諏訪神社に隣接した公園で野宿を始めた。やがて神社を後にして山中湖に向かい、レストハウスで2カ月間住み込みのアルバイトをした。
「ある日、ふと我に返って家に電話したら、お母さんに『もう帰ってきたら』と諭されて、自宅に戻ったといいます。水谷さんにとって、この家出でいちばんの心に残ったのは、2千円をくれたおじさんとの出会い。無償の優しさにふれたおかげで、大人不信も払拭され、再び役者の道を歩くきっかけになったそうです」(芸能関係者)
後にお礼を言うため何度も家を探したが、場所を思い出せず会えていないという。『少年H』でも魅せた円熟の演技。それも43年前、彼の背中を押してくれた恩人あってのものだった。