本誌隔週連載の「中山秀征の語り合いたい人」第10回のゲストは、歌手・俳優・演出家の美輪明宏さん(78)。その半生を振り返りながらお話いただきました。
中山秀征「’20年には東京でまたオリンピックは開かれるわけじゃないですか。そこに向けて景気を盛り上げようという流れがあるのはどうご覧になっていますか?」
美輪明宏「私は景気はよくならないと思います。だって、今は学生さんでも電子レンジをみんな持っているような時代ですよ? 電子レンジを何台もいりますか? 売れないというのは、“もういらないから”ですよ」
中山「ひととおりのものはそろっていますもんね」
美輪「それに日本の製品は幸か不幸かなかなか故障しませんから(笑)。ただ内容はいいけど日本のデザイン力はひどい。永田町をはじめ、企業家がユーザーの求めるものを作りませんから。私は、もっとカラフルで美しい電化製品を作ればいいのにと常々言っていましたが、それを実現させたのがスティーブ・ジョブズです。彼は『美しくなければいけない』と言っていたんですから」
中山「先ほど美輪さんはお客さんのことを考えて歌っているとおっしゃっていましたが、電化製品にせよ、商品もそれと同じことなんですよね」
美輪「映画もテレビも同じですよ。いつもユーザーのほうばかりを見ていればいいのに、すべての業界が自分たちの趣味や何かを押しつけようとしているんです」
中山「テレビということで言いますと、最近は家族のあり方をDNA鑑定で決めるというような話が話題になっていますが」
美輪「みなさん『家族とは血縁者』と錯覚を起こしていらっしゃいますけど、じゃあ夫は血縁者ですか? 赤の他人ですよね。なのになぜ家族なのかというと、長い年月にさまざまな出来事を手を取り合って共に乗り越えてきたからです。共に生き抜いた歴史、思い出、それがあるのが家族なんです」
中山「最後に、これからわれわれ日本人はどこを目指したらいいとお考えですか?」
美輪「ピエール・カルダンとご飯を食べたとき、『色彩感覚はフランスが世界一だと思っていたけどとんでもない。日本の色彩感覚にはかないません』とギブアップしたんですよ。日本の色彩の歴史というのは世界に冠たるものがあるんですね。もともとあったそうした色彩感覚や知性を取り戻すことが今の日本には必要です」
中山「日本が憧れられていたころに立ち返るということですね」
美輪「日本はもともとものすごい文化をもっているんです。でも、それを全部捨ててしまった。美しくてエレガンスなものがたくさんあるんだから掘り起こせばいいんです。いくらお金や軍事力があっても尊敬はされません。腕力がなくても、知識、教養、人格的に立派であればどこの国でも最敬礼してくれますよ。日本中がそれでいけばいいんですよ」