「僕がやってますけど、あくまでも僕の“役”でして。僕がしゃべってること、これ全部セリフなんです……」
ステージに立ち、そう語り始めたのは、『火花』原作者として出演する又吉直樹(37)。舞台『火花-Ghost of the Novelist』の冒頭のひとコマだ。芥川賞受賞以来、映画、ドラマ、コミックと展開されてきた『火花』の舞台化。又吉本人に話を聞いた。
「最初にコンセプトを聞いたとき、まず、僕が本人役で出ると聞いて驚きました。さらに、“なぜ『火花』を書いたのか?”“これはどういうテーマがあるんだ?”と、原作者として聞かれたくないことを舞台上で聞かれるという作り方は斬新やな、と思いました。これ、見たいな、と。これまでも、取材で聞かれるたびに真剣に答えてきたんです。でも帰り道で、“ああ言うたけど、ちゃうよなあ。次回はちょっと言い方を変えよう”と。そんで言うと、“これもちょっとちゃうな”ってことが多々あって。つまりは、もともと自分でも全部わかって『火花』を書いたわけじゃないし、いまも、本当の意味を答えられないんです」(又吉・以下同)
発表から3年。自身が感じる“『火花』前”と“『火花』後”の変化は?
「以前は、本好き、洋服好き、サッカー好き、社交的でない、とか、僕についていろんなトピックみたいなものがあったと思うんです。でもいまは、それが1回なくなって、“本を書いた芸人”という見られ方になった。もしかしたら、芸人として幅が狭まったかもしれないですね(笑)」
『火花』に登場する先輩芸人・神谷のセリフには“芸人・又吉直樹”の本音も垣間見ることができる。
「神谷が、『芸人は、芸人をやってなくても芸人や』みたいなことを言う。それは僕自身、芸人というものを職業として捉えてないからなんですね。世間がイメージする“芸人”という形をやることが、はたして芸人なのか? と。おのおのに芸人としての立ち方があると思うので、自分なりのやり方で面白いことをやっていけたらいいなぁとは思っています」
昨年には、受賞後第1作となる長編小説『劇場』を発表。今後も“又吉先生”の新作を期待していい?
「小説を書くって、しんどいっすよ。“エッ! こんなにパワーがいるの?”って思うくらい(笑)。でもなんというか、いまは、“書かないといけない”という意識は強いですね」