連続テレビ小説『べっぴんさん』第3週は、疎開先の近江の本家で肩身の狭い生活を送っていたすみれ(芳根京子)とゆり(蓮佛美沙子)が、戦後の混乱期の中で自らの生き方を模索する。米軍による本土への空襲によって、父・五十八(生瀬勝久)と亡き母・はな(菅野美穂)が築いた神戸の邸宅は跡形もなく焼け落ちる。惨状を目の当たりにしたすみれは、近江の坂東本家に戻り、そのすべてを五十八に報告。そこに、大阪の様子を見に行ったゆりも戻り、「坂東営業部」のビルは焼け、その上、夫の潔(高良健吾)の父・正蔵(名倉潤)が亡くなっていたことを告げる。ショックを受ける五十八は、貴族院議員として最後の務めをはたすため、東京へと向かう。
近江の本家に残ったすみれとゆりは、戦後の食糧難の中で、祖母の坂東トク子(中村玉緒)や伯父の長太郎(本田博太郎)、妻の節子(山村紅葉)、息子の妻の静子(三倉茉奈)に遠慮しながら、つらい生活を送っていた。
ある日、幼子をおぶった女性が、着物と食べ物を交換してほしいとやってくる。娘のさくらと同じ年ごろの子を持つ母に同情するすみれ。節子と静子が反対したにも関わらず、こっそり食料を手渡す。すると、その様子を見ていた静子が歩み寄るや、すみれの頬を平手打ちする。「畑仕事もろくにできひんくせに。都会育ちでノミに食われたこともないくせに。よその家の食べもん勝手に恵んで、人助けか?」と冷たく言い放つ静子。すみれは何も答えらず、うつむくだけ。
紀夫(永山絢斗)と潔からの便りのないまま、不安な日々を送るすみれとゆり。そんな折、長太郎の息子の肇(松木賢三)が出征先から帰ってくる。泣いて喜ぶ長太郎一家。それからまもなくして、長太郎に呼び出されたすみれとゆりは、家を出て行くよう促される。感情的に飛び出したゆりを追うすみれ。その時、二人の前に男の姿が……。ついに、潔が戦地から帰ってきたのだ。「ただいま」。ゆりを抱きしめる潔。
潔を温かく迎え入れるトク子。しかし、ゆりが大阪の空襲で正蔵が亡くなったこと、大阪の会社が焼けたことを告げると、「大阪に戻る」と潔。働いて軍資金を作って、もう一度大阪で一旗揚げると意気込む。「とにかく前に進まんと、何も始まらへん」という潔の言葉に賛同するゆり。すみれは、神戸に帰って夫の紀夫を待つことを決意する。「貯金を切り崩せば何とかなる」と。トク子に別れを告げるすみれ。
昭和20年の冬。坂東家の跡地は進駐軍に接収されることになり、すみれは、邸宅の庭の片隅にバラック小屋を建て、女中頭の喜代(宮田圭子)、娘のさくらと暮らし始める。一方、ゆりと潔は、五十八の会社を立て直すため大阪の闇市で生活を始めた。日本経済が大混乱する中、預金も封鎖されることになり、十分な食料も配給されないまま困窮するすみれ。潔とゆりが隠れて運んでくる食料や粉ミルクで何とか娘を食べさせていた。そんな折、東京から戻った五十八がバラック小屋を訪ねてくる。潔の生還を喜ぶ五十八は、成長した孫のさくらを見て目を細めるのだった。
ひさしぶりに家族がそろったすみれ宅。銀行口座が凍結されたまま、食料の配給もままならない世の中、何かを売って闇で現金を作り、食べ物に換えるしかない、と言う潔は、「この国はめちゃくちゃや」と不満を漏らす。五十八は、会社も家も、野上までも失ったいま、近江に戻ると明かすのだった。「誰に負けたんやろな、わしは」と肩を落とす五十八に対し、「わしはゆりと『坂東営業部』を必ず復活させてみせます」と誓う潔。「日本が戦争で負けたからいうて、お父さんと親父が負けたことにはならへんのや」と力強く語るのだった。目に涙を浮かべる五十八。
潔の言うように、思い出のつまった品物を売って、現金を作ろうと決意するすみれ。一方、ゆりは闇市を歩き、家に帰る途中、ボロボロの身なりの男に後を付けられ、不安になる。しかし、その男の正体が潔の弟分の岩佐栄輔(松下優也)。ひさしぶりの再会を喜ぶ潔は、栄輔のことをゆりに紹介する。白いにぎりめしのもてなしを受け、感動する栄輔。すると、そこにすみれがゆりたちを探し訪ねてくる。潔とゆりと一緒に、戦争で両親も妹も亡くなったという話を聞くすみれ。ゆりと潔も、ふだんは白飯など食べる余裕もなく、ギリギリの生活を送っていると知り、持参した品物を食料に換えて欲しいと言い出せない。そうして、潔とゆりのバラック小屋を後にしたすみれは、神戸の街を歩きながら、とある店の前で、アメリカ兵に腕組みをする派手な女性から声を掛けられる。戸惑うすみれに、「女学校で一緒やった、“悦子さま”やないか」と高西悦子(滝 裕可里)。その店がキャバレーとわかって体をすくめるすみれに、「昔の自分のまんまやったら、やってかれへんわ」と言い、家族や夫を戦争で亡くし、たった一人残った娘のために、生きていかなきゃいけないと語る。「ここに来るんは、最後の最後やで」とすみれに歩み寄る悦子。娘のさくらのために、すみれは、再び、品物を売りに行こうと決意をするのだった。
潔とゆりの家を訪ねるすみれ。持参した品物は、昔、父の五十八に買ってもらった服だった。現金に換えてきてやるという潔は、着るものを一枚一枚剥いで売っていく“たけのこ”をやってても先がない、とすみれを諭す。「働くしかない。すみれちゃんも、自分の手で仕事して、自分の足で生きるんや」と潔。神戸への帰り道、すみれは、昔、潔と靴屋の麻田(市村正親)の店を訪ねた日に思い出していた。そして、紀夫と結婚するときに作った靴を金に換えることを決意。翌朝、麻田の店を訪ねるのだった。
すみれの無事を知り、喜ぶ麻田。近ごろは、革が入手できないため下駄を作って売っているという。すみれが持参した靴を見て、「無事やったんか、よかった」と感嘆の声をもらす麻田。靴を売って欲しいと頼むすみれに、「この靴は、すみれお嬢様のためだけにあつらえたもんや。ほかの人に売るやなんて、堪忍してください」と言って断るのだった。それでも、娘のさくらのためにお金が必要だというすみれ。家族の写真を麻田に手渡す。「なんとまあ、可愛らしい。紀夫くんにも似てるかなあ」と微笑む麻田。すると、すみれの刺繍が施されたお手製の写真ケースに目を留め、「作ったらどないですやろ?」とつぶやく。こういう品物を作って、麻田の店で売ったらどうかと勧める。思わぬ麻田の提案に驚くすみれ。そうして、仕事をして生き抜く道を模索するすみれは、幼い頃からなじみの靴屋・麻田の店で手づくりの手芸品を売り始める。
麻田の宣伝で店には女性客が集まるものの、戦後の厳しい状況下では、趣味の品が売れることはないと気づく。悩みが深まる中、唯一商品を買ってくれた外国人通訳のジョンがすみれの元を訪れる。ジョンの依頼を受けて、出産の時を待つ妻のエイミーに日本のおむつを持参するすみれ。しかし、エイミーはおむつを見るなり、「こんなものを見たことない」と怒り出す。戸惑うすみれは、わけがわからないまま帰宅する。
その頃、闇市での生活に慣れないゆりは、今は何をしてでも、「坂東営業部」を再興させるという潔の言葉も納得できない。潔との距離を感じるゆり。
一方で、すみれは近所の母親たちに商品の作り方を教えるも、戦後の厳しい状況下で金を得ることはできなかった。自分の作る品物は、やはり贅沢品で売れるわけがない。そうあきらめようとするすみれを麻田は、「何もせえへんかったら、何も見つからへん。そういうものやと思いますで、人生ゆうんわ」と諭す。すみれは、そんな麻田をはじめ、自分を支えてくれるゆりと潔、友人の栄輔らのことを考えながら、母の言葉を思い出していた。「どんなに辛い思いをしても、笑顔に変える力をくれる人が、前に進む力になってくれる人が、勇気をくれる人たちがいる。それが人生の宝なのですよ」と。
やる気を取り戻したすみれは、麻田の店で相変わらず、近所の母親たちとの小物作りに励む日々。日々の家事でいちばん大変なことは洗濯で、子を持つ母としてはおしめを洗うのがもっとも大変だと語る母親たちから、外国に便利なおしめがあると聞く。さくらを抱いてエイミーを再び訪問するすみれ。慣れない日本で子供の母になることを不安に感じているエイミーを思い、彼女を励ます。「私の姉が言っていました。失くすのが悲しくなるほど大切なものがあるいうことを、“幸せ”言う」と。そして、今、自分は娘のすみれがいるから幸せだとエイミーに伝えるのだった。
エイミーから外国式のおむつの存在を聞いたすみれは、昔、外国人を相手に育児の講習会を開いていた看護婦の明美(谷村美月)を思い出す。外国式のおむつの作り方を教えてもらおうと、神戸中の病院をしらみつぶしに訪ねながら明美を探すすみれ。そして、ついに明美を見つけると、いつか麻田の店で明美に指摘されたように、贅沢品が売れると思っていた自分は甘かった。だからこそ、「必要とされているものを、必要としている人にために作りたいと思う」と言い、おむつの作り方を教えて欲しいと頼む。しかし、明美は、お嬢さん育ちのすみれに「ほんま、甘いわ」と言い捨てるのだった。
第4週の『べっぴんさん』は、生活のため外国式のおしめを作って売ろうと考えたすみれは、育児に詳しい看護婦の明美に作り方を教えてもらおうとするが、必要な生地を手に入れるのは無理と相手にされない。そんな時、母親となった女学校時代の親友の良子(百田夏菜子)・君枝(土村芳)と再会。すみれは2人に子供のための品物を作って生活していこうと誘うが……。