連続テレビ小説『べっぴんさん』の第14週は、昭和25年の元旦。すみれ(芳根京子)は、紀夫(永山絢斗)や娘のさくらと一緒に近江の坂東家でお正月を過ごしていた。おめでたい元日になるはずが、そこには重々しい空気が。話は、数日前に遡る。
義兄・潔(高良健吾)と姉のゆり(蓮佛美沙子)の新居に一家で挨拶に来ていたすみれ。そこへ突然、近江の坂東本家から節子(山村紅葉)と静子(三倉茉奈)がやってくる。ゆりへの出産祝いを届けに来た2人だったが、実は、五十八の兄・長太郎(本田博太郎)と長男・肇(松木賢三)が商売のやり方で対立した状態が続いているため、家出してきたと話す。
すると、そこへまた来客が。すみれの父・五十八(生瀬勝久)が忠一郎(曽我廼家文童)を連れて孫の正太の顔を見に来たのだが、節子たちの姿を見て驚く。いがみあってばかりの長太郎と肇に困り果て、「どないしたらうまいことやっていけますのやろ?
と訊ねる節子に「兄ちゃんが引くことが大事や」と五十八。時代が変わっていく中で、自分たちの世代は若い人たちの新しい考え方が理解できないところが悪い、と。「昔から、老いては子に従えと言いますな」と忠一郎。
坂東営業部の新構想に話が及ぶと、問屋業務だけでなくキアリスのような自社ブランドの製造・販売の形態にしたいと語る潔に、「ほう、ええやないか! すぐにやったらええ!」と賛同する五十八。しかし、オライオンショップを一気に全国展開したいというアイデアには、早急すぎると反対する。「焦るなと言うてるんや」と制する五十八に、潔は焦ってるのではなく、戦略だと言って一歩も引かない。
物語は元旦に戻る。近江の坂東本家の台所では、ゆりが静子と節子ともにお節の準備をしていた。遅れてやってきたすみれたちに、「今年は、おぜんざい作ったんよ。さくらちゃんがおぜんざいが好きや言うてたから」と微笑む静子。
和やかなムードで御膳の準備を進める女性陣とは一転、座敷では、男たちが重苦しい空気のなか、正月の酒を酌み交わしていた。自社ブランドのショップを全国展開する計画を進めているという潔に、「自分の意見を聞けないのか!
と怒り出す五十八。そのやりとりを見ていた長太郎は、「人のふり見て我がふり直せとはこういうことを言うんやな」とせせら笑う。
正月からあわや兄弟喧嘩が始まると思われたそのとき、祖母のトク子(中村玉緒)が忠一郎に体を支えられながらやってくる。「60すぎてこんな調子やったら、死んでも死にきれまへんな。どこで子育て間違ったんやろうな」とトク子。
「ではみなさん、明けましておめでとうございます」とのトク子の掛け声で新年の挨拶を済ませ、食事を始めた一同。ところが、静子のぜんざいを食べたさくらは表情を曇らせ、箸を置いてしまうのだった。「このおぜんざい、おいしくない。いつもの喜代さんが作ってくれるぜんざいのほうがおいしい」とさくら。思いがけない言葉に表情が強ばる女性たち。すみれはきつくさくらを叱りつける。「謝りなさい! お母さん、さくらがそんなこと言う子やと思わなかった」と。部屋を飛び出し、泣き出すさくら。
1月2日の朝、すみれは重い空気が漂う近江の実家で過ごしていた。五十八と長太郎は朝から酒を飲み、口ゲンカを始める。トク子は声を荒げて二人を叱るが、無理がたたって倒れてしまう。床にふせったトク子だったが、夢の中で亡くなった夫からお告げがあったと五十八と長太郎を枕元に呼ぶ。トク子のいいつけで押入れから掛け軸を探し出した二人。
トク子の言葉通り、「書」と書かれた箱を開け、掛け軸を取り出し開くと、そこのは、『飲んで食って歌へ』としたためられていた。トク子をはじめ、五十八と長太郎はそれを読み上げ、笑うのだった。
「ええなあ。兄ちゃん、わしな、わしは今、気分は余生やねん。余生を、この家で過ごさせてもらいたい。そやから、手伝いたいと思ってるだけで、でしゃばる気はないんやで」と五十八。長太郎は、弟の五十八に対してずっと嫉妬していたと言い、「できる弟やからな」とポツリ。すると、五十八自身も、長太郎に対して同じ思いがあったと打ち明ける。「わしとは全然違う方法で成功しはったからな。人とまめにつながり持って
と。そして、「お互いさまや」と笑い合う二人。
「幸せな人生とは、飲んで食って歌うこと。深いなあ。さすがお父ちゃんや」とトク子。さくらに感情的になってしまったと反省するすみれに、「母親の年齢は、子供の年齢と同じなんやて。失敗はしょうがない。けど、わてはベテラン中のベテランやで!
と説くトク子は、「ふふふ」と笑うのだった。
その晩の夕食で、長太郎は、今日から肇に代替わりすると告げる。「もう口は出さん。これからはお前の好きなようにやればいい。そやから、毎月飲んで食って歌って、たまに旅行に行けるくらいの金をくれ!」と長太郎。一方、五十八も潔に口を出さないから好きなようにやればいいと言い、「その代わり、潔くんとゆりと正太が、飲んで食って歌えるくらいは稼いでくれ。ええな?」と語るのだった。
新年早々からキアリスを子供用品の総合店にするための準備を進めていくすみれたち。ベビーベッドなどを仕入れるため、アメリカのメーカーと英語で取引ができる担当者が必要になり、すみれは大学で英語を熱心に学んでいたゆりに相談する。しかし、子どもが生まれたばかりのゆりは「子育てに専念したい」と話を断り、困ったすみれたちは、外国人相手に英語で話をしていた明美を頼ることに。
すみれは、紀夫と明美ともに大急百貨店を訪れ、アメリカのベビー家具メーカーの担当者と面会する。担当者のジミーは、英語でキアリスのことは大急百貨店の大島社長(伊武雅刀)から聞いていると挨拶し、さっそく創業したばかりのキアリスの最初の決算について問う。しかし、通訳を務めるはずの明美は、「決算」を意味する英単語が理解できず、ジミーに英語がわからなければビジネスの話はできないと言われてしまうのだった。
メーカー担当者との商談で傷ついた明美にかける言葉がみつからないすみれ。掃除中の武に、明美はふだんから英語の勉強をしているのかと訊ねる。「そうみたいです。正月も勉強しちょりましたし。これまで英語が助けてくれたから、こらからもきっと英語が助けてくれるはずと言うちょりました」と武。
キアリスの朝礼では、これから総合店を目指して動き出すため、まず、国内の家具班、雑貨班、おもちゃ班、輸入班、この4つの中から誰が何の仕事を担当するか決めて、今年一年の仕事の計画表を出すように言い渡される。「私、一番ピンと来たのが雑貨やの。雑貨をやりたいわ。バッグとかピン留めとかかわいいものをいっぱい集めたい」と良子。君枝はデザインや色彩の勉強にもなるとおもちゃ班を選んだが、明美は、英語が生かせる輸入の仕事ではなく、家具を担当すると言い出し、すみれたちを驚かせる。「英語のできる新しい人を雇ってもらったらええんやない?」と明美。
すみれはゆりを訪ね、明美に英語を教えてほしいと頼む。ゆりは承諾してくれたものの、明美はすみれの申し出を断り、英語から遠ざかろうと、大事にしていた英語テキストも捨ててしまう。すみれに頼まれたもの、なかなか話をしにこない明美を気にかけたゆりは、キアリスを訪れる。
「一言いわせてもらうと、あなたの自意識はいらない自意識やと思うわ」。ゆりは、そう明美に言い放つと、自分も英語を勉強してきたから明美の気持ちはわかると話し、「手に入れないものがあるなら、絶対に手に入れる気持ちでやらないと。なりふりかまわず一生懸命!」と明美を説得するのだった。
その夜のあさや靴店で、明美は突然麻田(市村正親)から「ここがなくなったらどうする?
と訊かれ、驚く。麻田は、自分の体が動けなくなって靴が作れなくなる日がいずれ訪れると言う。そして、明美がゴミ箱に捨てたはずの英語のテキストを手渡し、「頼れるのは自分だけやから」と麻田。
翌朝、出勤したすみれに、ゆりに英語を習いたいと思うと伝える明美。ゆりの家で英語を習い始めた明美は、英語で自己紹介する。「私は小野明美、26歳です。キアリスで働いています。今の仕事が大好きです。会社もその仲間たちも大好きです。だから英語を身に付けて、みんなの役に立ちたいのです」。
第15週の『べっぴんさん』は、靴職人の麻田のもとを訪れ、娘のさくら(粟野咲莉)の入学式用の靴を作ってもらえないかと頼むすみれ。麻田はすみれの注文を引き受けるが、実はある悩みを抱えていたのだった。一方、子供服店・キアリスでは、急激に売り上げが落ちるという事態が起きていた。原因はわからないままだったが、ある日キアリスの商品の偽物が出回っているという情報が入り、真偽を探ろうとすみれたちはその店に乗り込んでいく。