思い出すから思い出なんです。苦しい思い出と楽しい思い出があります。良き思い出が悲しい思い出を駆逐してくれるんです。だから、日々を頑張って生きましょう。
離婚直後の悲しい日々を乗り越えて息子と2人で生きてきました。毎日、とにかく笑って頑張った。それは息子の心に残る苦しい思い出を駆逐するためです。昨日、小学校の同窓会があったんです。息子の同級生たちが小学校の校庭に集まりました。私はおやつ担当を頼まれ、大量の菓子パンを差し入れました。校庭をかつての学友たちと走り回る息子はずっと笑顔でした。迎えに行った私を見つけると駆け寄ってきました。ぎゅっと肩を抱きしめ、家に戻ったのです。その帰り道、息子が私を振り返り、「パパ、この道、2人で毎日通ったね。雨の日も、暗い日も、毎日一緒だったね。懐かしいね。手を繋いで通ったね」と言ったのです。私は笑って頷いていましたが、泣き崩れそうでした。思い出のせいです。楽しかった思い出までが今は悲しい思い出になっています。
離婚のときのことを思い出しました。家族ぐるみのお付き合いがあった在仏の日本人の友人たちがみんな黙った。今だから言えますけど、なんとか離婚を先延ばしにしたいという私の声は周囲には届かなかった。しょうがないな、と諦めなければならない状況でした。だから、過去は諦め、私は悲しみにくれる息子にたくさんいい思い出を残してやろうと決意したのです。お前にはパパがいる、と言い続けました。そして、今日、息子の心の中に、この日々が刻まれていることを知ったのです。記憶の財産とでもいうべき、2人の宝物なのです。
さて、今日はスイスとフランスで人気の伝統チーズ料理、ラクレットを辻風にアレンジしてご紹介いたします。ご家庭でフレンチ料理を手軽に! 調理型「セルクル」を使った料理の第2弾です。
さっそく、材料です。グリュイエールチーズ(ラクレットチーズでもOK)、じゃがいも、玉ねぎ、ベーコン、生クリーム、オリーブオイル、バター、塩・こしょう、さんしょう、黒七味、あと、色付けの黒トリュフがあればなおいい感じになります。黒トリュフが無い場合、黒オリーブで代用しましょう。
レシピ。じゃがいもを3、4センチ四方に小さく切り分け、沸騰したお湯で茹でます。竹串がすっと入ればOKです。茹でている間に、細かく刻んだ玉ねぎとベーコンを炒めます。火がしっかりと入る感じ、ベーコンはカリッとなるまで炒めてください。ボウルに、生クリーム大さじ4、バター20g、オリーブオイル大さじ3、を入れ混ぜてソースを作ります。塩・こしょう、さんしょう、黒七味、などで味付けをしておきます。茹で上がったじゃがいもをフォークでつぶし、先のボウルの中へ入れ、よくソースと混ぜ合わせます。それを、皿の上に置いたセルクルの中に3分の1ほど敷きます。そこに炒めたベーコンと玉ねぎを均等に敷きつめ、さらにじゃがいもでサンドするのです。セルクルをそっと引き抜いてください。綺麗な白亜の御殿が聳えます。フライパンにオリーブオイルを少し引き、5センチ四方(セルクルのサイズに合わせた大きさ)に平たくカットしたグリュイエールチーズを弱火で温めます。トロっと溶けますので、それをじゃがいもの塔の上に上手にのせてくださいね。真ん中に黒トリュフを添えて完成。(トリュフは高価ですから、黒オリーブをひとつぽんと置いても素敵です。黒トリュフは瓶詰めが安いですよ)
さ、豪華で簡単、辻風ラクレットをお試しあれ。写真付きのレシピはこちらで。
ボナペティ。
エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!
辻仁成/つじ ひとなり
作家。東京都生まれ。’89年「ピアニシモ」ですばる文学賞、’97年「海峡の光」で芥川賞、’99年「白仏」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を受賞。映画監督、演出家としても活躍。現在はシングルファザー、パリで息子と2人暮らし。