1月某日 北イタリア・パドヴァ
新年あけましておめでとうございます。つい同じような挨拶をしたのが3カ月前くらいに感じられるほどの、目まぐるしき時間経過です。
子どものころは1年間学校に通うのがあんなにも長く、なかなか次の学年になれなくてもどかしい気持ちを散々味わっていたのに、今となってはあのときの、時間を持て余している感覚を分けてもらいたいくらいです。
義務教育のように、あることに強制されている状況を終わらせるまで“あと何年”という年数を意識して日々やりくりすると、時間というのは意外となかなか過ぎていかなくなるのかもしれませんが……。
しかし、こんなどうでもいいことを考えているあいだにも時間は瞬く間に費やされていくので、今年は一分一秒を大切に、味がしなくなるまで噛み続けるスルメイカのようなつもりで、大事に惜しみなく使っていけたらいいなと思っております……。
ところで、去年の暮れ、イタリアではちょっとした苦笑を醸すニュースで持ち切りになりました。
日本と同様に、この国でも年末になるとさまざまなエンターテインメントの催しが各都市で展開され、その中でも特に、いまだに大人から子供に人気なのがサーカスです。サーカスという商売は、イタリアでも日本と同じく国産の団体がやりくりしていくのは経済的な意味でもなかなか大変らしいのですが、それでもこの国の老舗サーカス団は毎年アイデアを凝らして、皆さんに喜ばれる、飽きのこない新しいプログラムを提供し続けているようです。
どのサーカス団も、人間技とは思えないスリルに満ちたアトラクションや、芸を仕込まれた猛獣や可愛い動物たちも。観客に息抜きを与える道化師たちは、日々人々の進化する笑いのツボをきちんと考慮したネタで人々を楽しませてくれていますが、今回、とあるイタリアの老舗サーカス団の目玉は『パンダ』でした。
イタリアでは動物園にすら存在しない、あの、世にも希有で可愛い動物であるパンダに、サーカスにさえ行けば会えると知った子供たちは歓喜し、親を説得してチケットを購入し、喜びで胸をときめかせながら会場へと出かけていったわけです。
しかし、会場で実際にその噂の『パンダ』と遭遇した観客の何人かは、自分たちの思い描き続けてきた愛らしいパンダの姿と、実物の様子との違いに少し戸惑いを見せました。確かに、モコモコの全体に丸いシルエット、真っ白な身体に耳と目と四肢は黒く、愛らしいといえば愛らしい風情ではあるのですが、動きが如何せん『犬』を彷彿とさせていたのです。
「さあ、パンダと一緒に撮影は如何!?」
とサーカスの団員に促され、お金を払ってこの不思議な『パンダ』と撮影をしたとある観客は、団員に抱えられたその『パンダ』を至近距離からまじまじと眺めて、やはり腑に落ちないものを感じ、
「あのう、これ……、ほんとにパンダですか?」
と問い質したところ、「ハイブリッドなんです」という答えが戻ってきたのだそうです。