「わずか50メートル先がスモッグでかすんで見えないんですから、車に乗るのもかなり危険です。とはいえ、マスクで顔を覆わないと外を歩けませんから、車に乗らざるをえなくて……」(北京在住の日本人ビジネスマン)
1月28日、中国・北京市内は不気味な霧に包まれていた。広大な天安門広場でも、毛沢東の肖像画が見えないほど。さらに翌29日には、北京市当局が外出をひかえるよう訴えるまでに、スモッグの影響は深刻化した。
ネット上の書き込みには、《水が汚染されればペットボトルの水を、粉ミルクが汚染されれば輸入品を買えばいいが、空気が汚染されればどうすればいいのか》という悲鳴も……。日本円で1缶70円もする”新鮮な空気の缶詰”が飛ぶように売れるほど、北京市民は汚染された空気に戦々恐々としている。
このスモッグの原因は大きく分けて4つあると指摘するのは、『中国ガン』(並木書房刊)などの著書があり、中国の大気汚染問題に詳しい台湾人評論家で医師の林建良氏だ。
「1つ目は、北京郊外に並ぶ工場から出る排煙。’08年の北京五輪開催前、中国共産党は世界各国に中国のクリーンなイメージを見せるために、160数棟の工場を撤退させました。五輪後、その工場は元のように稼働しています。2つ目は火力発電。中国では発電の8割を火力に依存し、そのほとんどが安価な石炭。しかも質の悪い石炭を燃焼させているので、CO2や硫黄酸化物、窒素酸化物が大量に吐き出されています。3つ目が自動車の排気ガス、そして4つ目は家庭用の石炭暖房です」
今年1月に、北京市内でスモッグが見られなかった日はわずか5日間のみ。さすがの北京市当局も、1月14日には58企業の工場を操業停止にし、41企業には減産を命じた。このなかには鉄鋼大手の首鋼集団の建材工場や日本のTOTO、韓国の現代自動車なども含まれていた。
しかし、汚染は改善するどころか悪化の一途をたどった。29日には操業停止企業を103社まで拡大したが、その効果は見られなかった。大気汚染は日本の総面積の3倍以上の143万平方キロメートルに達し、山東省青島市、広東省広州市にまで広がった。