隔週連載〈中山秀征の語り合いたい人〉、今回のお相手は、若者の立場から社会を鋭く読み解く社会学者の古市憲寿(のりとし)さん(29)。現代日本を取り巻くさまざまな問題を根本から考える。
中山「日本は景気をよくしないといけないという部分もありますよね。それに関しては東京オリンピックが鍵になると思うんですが、どう思いますか?」
古市「2020年までは景気は上向くというか、少なくともそうした雰囲気だけはもつんじゃないですか。問題は2020年の後ですよね。たくさんの公共事業をして、お祭りみたいに盛り上がった後に何があるかといえば、何も残らないような気がします」
中山「たしかに、オリンピックはゴールではないですもんね」
古市「1カ月くらいのオリンピックのために頑張るのはいいけれど、その後に何をするんだろう?って」
中山「そんな中でリニアモーターカーを走らせるなんていう話もありますよね」
古市「まもなく工事を始めると言ってますけど、そもそもみんな本当に大坂まで70分で行きたいんですかね?」
中山「アハハ。莫大なお金がかかりますしね」
古市「僕はリニアモーターカーにしてもオリンピックにしても、昭和が楽しかったおじさんたちがもう一度同じ夢を見ようとしているだけなんじゃないか、という気がしちゃうんですよ。50年前の夢を再現しているかのようです。基本的に昭和時代を生きてきたおじさんたちの古い価値観がいまだにはびこっていることが、社会を変えにくくしている気がします」
中山「僕なんかも古き良き時代をよしとする美的価値観はあるんですけどね」
古市「“おじさん”って、いわゆる中年男性のことだけじゃないというか、年齢や性別関係なく、自分の価値観を疑わない人がおじさんなんだと僕は思っているんです。たとえば一つの組織にずっと属して、その組織での論理を社会全体の論理や流行より当たり前に優先してしまっていたら、それはもうおじさんです。そうやって自分が世間とズレていることに気がつきもしないというのは、非常に危険なことだなって思います」
中山「俺のよかれは世間のよかれじゃないということだよね」