このところ、巷で話題のモラルハラスメント(以下・モラハラ)。有名人によって注目を集めることになったモラハラだが、実は自分が気づかずにモラハラを受けている人も少なくない。では、そのモラハラとはどういうものだろう。DV(ドメスティック・バイオレンス)やモラハラに詳しい淡路町ドリームの松江仁美弁護士は次のように話す。
「親密な関係にあるパートナーからの精神的な虐待、心理攻撃の総称です。暴力には肉体的、経済的、性的などがありますが、そのすべてにモラハラの要素が含まれます。モラハラと称するときは、基本的に身体的なDVを含みませんが、身体的DVとモラハラはつねに併用されます。モラハラは、『こいつにはこういう扱いをしていい』といった見下しや、人間関係において間違った区別が原因とされます」
日本でこのモラハラが一般的になったのはここ数年のこと。しかしそれまで精神的な暴力や嫌がらせを受けている人がいなかったわけではない。
「以前からモラハラ被害者は大勢いましたが、モラハラをしていた人もされていた人も自覚がなかったといえるでしょう。たとえば、夫の不倫が主原因で離婚した女性がのちにモラハラという言葉を知り、『あ、私はモラハラも受けていたんだ!』と認識することも少なくないのです」
モラハラ専門の心理カウンセリングルームを開設する心理士・行政書士の佐藤千恵さんは、3年間でなんと1千200件以上のモラハラの相談を受けている。女性専門を掲げているため、件数はすべて女性からのものだ。モラハラ夫(以下・モラ夫)の実態とはどんなものだろう?
【表と裏の顔の二面性を持つ】
モラ夫の代表的な特徴に二面性がある。世間的には「いい人」「立派な人」で通っている。周囲には、「あんないい人が怒るなんてあなたが悪いのでは?」「夫婦なんてそんなもの」と言われる。外では「いい人」を演じ、裏の顔は家の人間にしか見せない。なお、裏の顔は自分が優位に立てる人に対して行われる。
【言葉で精神をつぶしてコントロール】
モラ夫は「お前なんか死んでしまえ」といった言葉を投げるだけではない。被害者が、「絶対に言われたくないこと」を探り出す。たとえば、「超絶ブス」「育ちが悪い」「それでも母親か」など相手の弱点部分を集中的に攻撃する。また、場合によっては穏やかだけど執拗に攻めることも。すべてを否定し、揚げ足をとり、いかに被害者が悪いことをしたのか、ダメ人間かを告げる。
【妻が悪いから怒らせたのだと思わせる】
無視していたと思えば、「愛している」と言ったり、謝罪することもある。蓄積期、爆発期、ハネムーン期があるのはDVと同じ。やさしくなるたびに被害者は「本当はいい人。自分のせいで怒らせた」と自身を責めてしまう。でもいつも責めていると被害者に逃げられるので、たまに餌を与えて支配する。
【嫉妬心が強い】
「妻は所有物」との認識から、妻の行動を制限。そのぶん、嫉妬心もすさまじい。メールや電話をたびたびするのもその例。別居するとストーカーになることも。
一般家庭で起こるモラハラは表に出にくく、加害者・被害者の事故認識の薄さから、まだ公的な統計が取られていない。だが、実際には相当数にのぼるといわれる。
「被害数は年々、増えていますね。また、私のモラハラに関するブログには月に8万件を超えるアクセスがあります」(佐藤さん)