「『残業代ゼロ法案』とも呼ばれる労働基準法の改正案が、3日、閣議決定されました。今は、原則、1日8時間、週40時間を超えて働いた人には、残業代を支払わねばなりません。高度プロフェッショナル制度はこの残業規定を崩し、為替ディーラーや研究開発などの専門的業務に就き、年収1千75万円以上の方には、残業代を支払わない、ゼロにするというものです」
そう話すのは経済ジャーナリストの荻原博子さん。「残業代ゼロ法案」は、10年ほど前に大きな反発を招いた「ホワイトカラーエグゼンプション」と同じ考え方だ。しかし今、メディアの多くは時間ではなく成果で評価する働き方、ダラダラ残業しない成果主義の導入などと解説している。
「成果主義と聞くと、仕事の早い人は早く帰れて、遅い人は残業もやむなしと感じます。能力次第といわれると、反論しづらい面もあります。この成果主義がごまかしなのです。改正案の全文を読んでも、成果に応じての報酬や就業時間の短縮などは、いっさい書かれていません。単に対象者の残業代は払わない、それだけです」
この改正案が施行されれば、「仕事の遅い人は終わるまで帰れませんし、早い人には次々と仕事が与えられ、労働者は馬車馬のように働かされるでしょう」と荻原さんは語る。
「今は残業代が歯止めになって、企業も長時間労働を抑制しています。残業代がなくなると長時間労働が横行し、ワークライフバランスは崩れ、健康被害や過労死が今以上に深刻になると思います。また、長時間働いても残業代が出ませんから、収入も減るでしょう。働く人にとってなんのメリットもありません」
反対に雇う側には、絶対有利な法律となる。支払う賃金が減って労働量が増えれば、企業にとっての生産性はアップすることになるからだ。
「圧倒的に、働く側に不利なこの改正案に、私は断固反対します。いったん法律が成立すると、職種の拡大や年収の引き下げなど、条件を緩和するのは簡単です。そうして徐々に、対象者を増やしていきたい思惑が透けて見えます。派遣法がそうでした。今回の改正も、派遣法と似た変遷をたどるのではと危惧しています」