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京都地裁206号法廷。パイル地のフェミニンなカットソーにベージュのロングスカート、足元はコンバースのスニーカーといういでたちの亀石倫子さん(42)。法廷で彼女の正面に座った女性検察官が、紺のパンツスーツに身を固めていただけに、彼女のカジュアルさは際立っていた。およそ“弁護士らしくない”と書くと、亀石さんは不服だろう。彼女への禁句は「らしさ」。弁護士バッジさえつけていない。

 

今年3月、大阪府警が捜査対象の車両に、令状なしにGPS端末を付けた捜査を、最高裁は「違法」とした。この裁判を勝ち取ったのが亀石さん。子どものころから協調性がないと言われ、会社でも制服を着なかった。長い物に巻かれることができなかった彼女は、34歳で弁護士になって、公権力に屈せず、「自由」を守り通した。

 

「『らしさ』って何でしょうね(苦笑)。バッジをつけないのは、単になくしたくないから。それに、この服装にバッジは合わないでしょう」(亀石さん・以下同)

 

異色なのは、服装だけじゃない。弁護士になって7年、その経歴にも驚かされる。大学は法学部でさえなかった。卒業したのは女子大の英文科。その後、小樽の実家に戻り、OL生活を送っていた。弁護士を志したのは、会社を退職し、結婚した26歳になってからだ。司法試験に合格したのは34歳。以後、「大阪パブリック法律事務所」に所属し、殺人や強盗などの凶悪事件の刑事弁護を専門に手がけてきた。

 

弁護士2年目の’12年、大阪の老舗クラブ「NOON」の経営者が風営法違反で摘発された事件の弁護団に加わり、無罪を勝ち取ったことから、亀石さんはその名を上げる。’15年から始まった「GPS裁判」では、今年3月、亀石さんを主任弁護士とする弁護団の「GPS捜査はプライバシーの侵害にあたり、令状がなければ違法」という訴えが、最高裁でほぼ全面的に認められるという快挙を達成。彼女は一躍、時の人となった。

 

「よく権力と闘うイメージで見られがちですが、実はものすごく肩の力が抜けています。自然体で素直に物事を見ているだけ。普通の一般人の感覚です」

 

たおやかにほほ笑む亀石さんだが、想像し難い幼少期を、彼女は淡々と語り始めた。保育園には、行くのが嫌すぎて吐いてしまうほど。登園した際でもいつも弟と2人、壁際で手をつなぎ、誰ともしゃべらず立っていたという。

 

「1人でいることが好きで、集団行動が嫌い。学校の通信簿には、必ず『協調性が足りない』と、書かれていました」

 

教育熱心な両親は、スキー、ピアノと、さまざまな習い事をさせてくれたが、彼女が好きなのは、1人で本を読み、1人で勉強することだった。

 

「学校で『子どもらしく元気に校庭で遊びなさい』と言われても、『子どもらしく』って何?と思ってしまう。遊びたくもないのに、元気に遊ぶことを押し付けられることに息苦しさを感じていました」

 

納得できないまま、ただ従わされることを“不合理なルール”と感じるのは、今も変わらない。弁護士としては重要な資質だが、子ども時代の周囲からの評価は、“かわいげのない子ども”だった。しかし、父親は、そんな彼女の個性を否定しなかった。協調性がないと言われると、フランス文学の『狭き門』からの言葉を引用し、励ましたという。

 

《多数派に迎合せず、困難な道を選びなさい》

 

亀石さんの現在のオフィス「法律事務所エクラうめだ」は、阪急梅田駅近くにある。昨年1月、独立。エクラはフランス語でECLAT。輝きという意味だ。GPS判決を機に、メディアに出る機会も増えた。大阪の報道番組にコメンテーターとして定期的に出演し、裁判を扱う特番の出演依頼も舞い込んでいる。最近では、6月中に可決しそうな「共謀罪」について、聞かれることが増えてきた。亀石さんは、この「共謀罪」に警鐘を鳴らす。

 

「共謀罪が成立すれば、私たちは日常的に監視されることになるでしょう。最高裁で、令状を取らないGPS捜査は違法と判断されたにもかかわらず、任意で、国民を監視できる共謀罪が成立したら、司法が軽んじられているとしか思えない」

 

政府は「テロを未然に防ぐため」と説明するが、亀石さんは、うのみにはしない。

 

「怖いのは、基地問題、原発問題、安保法案などで政府に異を唱えると、監視対象にされるのではないかということ。政府は間違ったことをしない、警察は間違った捜査はしないと思い込むのは、危険です」

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