「50代半ばで長男と長女を社会に送り出し、肩の荷を下ろしたつもりでいました。夫と、定年を迎えたら2人で旅行に行ったり、家もリフォームをしたりしようと、計画を立てていたのです。でも、いまやすべては夢のまた夢で……」
本誌記者にそう語るのは、関東近郊に住む田口京子さん(73・仮名)。まだ70代だが、腕や足は枯れ木のように細く、表情も疲れ切って、実年齢よりも年をとって見える。子育て卒業から20年がたった田口さんの現状は、かつて描いていた夢とはまったく異なるものになってしまった。
「いまから10年ほど前、長男が嫁と孫2人を連れて実家に戻ってきたんです」
その日から、広くはない一軒家での“完全同居”が始まった。長男の経営する飲食店が赤字続きで、生活が立ちゆかなくなったためだった。調理師免許を持つ長男は、シェフとして腕をふるったものの、繁盛したのは開店当初だけ。その後は閑古鳥が鳴く状態となった。
「人件費削減のため、嫁も店を手伝っています。仕事中は立ちっぱなしで疲れているからと、いつのまにか家事も育児もすべて私に押し付けられました」
田口さんは家のローンも完済し、夫婦2人だけであれば十分に生活していける年金を受給していた。だが「今月も赤字で……」と泣きつかれるたびに、長男一家の生活費を全部負担するどころか、運転資金も補填せざるをえなかった。
「とっくに蓄えも尽き、夫の年金だけでは息子たちの生活まで支え切れません。家計が火の車なので、私は工場でのパートを始めました。今後それすらもできなくなったら、どうなるのでしょう……」
田口さんは早朝4時に起き、家族全員の洗濯を済ませた後、朝食を準備し、6時に出勤。そんな生活がすでに7〜8年続いている−−。
実は、体を張って息子や孫の生活を丸抱えしているのは、田口さんだけではない。今年6月に発表された内閣府の調査によれば、60歳を過ぎても18歳以上の子や孫の生活費を一定以上負担している人が2割もいたという。この結果についてファイナンシャルプランナーで「働けない子どものお金を考える会」代表の畠中雅子さんは、次のように語る。
「子や孫の生活費の不足分を補っている親は、2割どころか、もっと大勢いると思います。本当に困窮している親御さんは調査には答えないケースも多いですからね」(畠中さん)
子や孫のパラサイト(寄生)により困窮状態にーー。親子共倒れになる「パラサイト破産」は、いまや社会問題化しているという。パラサイトされる親たちにとって泣きどころなのは孫の存在。子どもにはある程度厳しくできても、「孫たちは見捨てられない」というケースも多いのだ。
冒頭の田中さんもこう話している。
「長男と嫁はともかく、孫たちはいい子だし、かわいくて。転がり込んできた長男夫婦には『早く出て行け!』と言いたいのですが、孫たちも困るだろうと思うと、なかなか言葉にはできません」(田中さん)
悩みつつも出口を見つけられないでいる高齢者たち……。はたして彼らをパラサイト破産から救う手立てはあるのだろうか?
「親御さんたちも60代くらいまでであれば、お子さんやお孫さんたちを援助することができると思います。ただ、それは問題を“オブラートに包んでいる”にすぎません。80代になり、介護が必要になったり、病気になったりで、それまでの家計を保てなくなったとき、オブラートは破れ、親子、もしくは孫も含め、どうにもならなくなってしまいます」(畠中さん)
共倒れを防ぐために必要なのは、“適切な距離を保つ勇気”だという。
「これ以上経済的な援助ができないのならば、それをお子さんやお孫さんに率直に伝えるべきです。私の経験では、『もう親(祖父母)には頼れない』と、はっきりと認識すれば、それまで働いていなかった妻が働きに出たり、家賃の安い部屋に引っ越したりするなど、それなりに生活を改めるケースも多々ありました。それを『家族の関係を壊したくないから』と、ズルズルと援助を続けていると、最悪の結果となってしまいます」(畠中さん)
“甘えさせない勇気”が、パラサイト破産から自分や家族を救うのだ−−。