必死で働いた現役期間を終えた老後、年金生活に入るや、思いもかけない形で老後破産の瀬戸際を生きるーー。そうした事例を『NHKスペシャル 老人漂流社会“老後破産”の現実』(9月28日放送)ではリアルに取り上げ、「早く死にたいーー」という独居高齢者の悲痛な叫びが、多くの視聴者に危機感を与えた。
「65歳以上の一人暮らし高齢世帯の貧困率は、番組では国が実施している『国民生活基礎調査』に基づいて約50%と示されていましたが、これは控えめな平均の数字で、地域によって差があります」
そう語るのは、番組に出演した高齢者の貧困問題に詳しい河合克義明治学院大学社会学部教授。現役時代きちんと働いていたのに、なぜ老後破産は起こるのか?老後破産の現状について話を聞いた。
「私が関わった東京都港区と山形県全市町村の一人暮らし高齢者調査の結果で見ますと、収入が港区で200万円未満、山形県で150万円未満を貧困層として設定(生活保護基準の1.4倍程度)すると、その割合はともに56%でした。都市と農村という地域の違いを超えて、貧困層が5割半にもなるのです。理由についてはさまざまですが、総じて若いころからの不安定な生活状況が反映しているといえます」
生活保護に結びつけばまだ救われるが、生活保護基準以下の生活をしているのに生活保護を受けていない人が問題だと、河合教授は言う。また、わずかな資産があり、生活保護の基準を超えてはいるが、生活費が本当に足りない人も。
「そもそも年金受給額が月額2万〜3万円と、年金制度がスタートしたころの、大家族で同居を前提とした小遣い程度の年金額の高齢者が、今でも多く存在します。こうした低所得の人々に対しては、最低生活を保障する制度間調整といった新たな政策の展開、つまり最低生活を下回ることになるような保険料等の設定は改めることが急務となっているのです」
老後破産の背景に、河合教授はいくつかの問題点をあげる。
「教育費の負担の重さ。そして住宅ローンが加われば現役時代に蓄えをする余裕などない、そこに問題があります。特に教育費の負担が重すぎるのがわが国の特徴。少子化対策に一定の成果を出したフランスでは、教育費は無料です」