最近「老後破産」や「下流老人」という言葉をよく聞く。下流老人とは、生活保護レベルで暮らす高齢者か、そのおそれのある人。首都圏に住む1人暮らしの高齢者なら月約13万円、夫婦なら月約18万円だ(’15年度額)。
それに対して年金は、厚生年金なら標準的な夫婦で月約22万円だが、国民年金は満額でも月約6万5,000円、夫婦で約13万円(’15年度額)。そのうえ年金引き下げのニュースもある。しかし、経済ジャーナリストの荻原博子さんは言う。
「日本には、国民全員が何らかの健康保険に加入する『国民皆保険制度』をはじめ、各種制度が整っています。必要なときに、制度を適切に使えば、よほどのことがない限り、老後に破産することはないでしょう。ただし制度は申請制ですから、知らないと使えません」
そこで、老後破産に陥りそうな不安を挙げて、どんな制度や対策があるのか、教えてもらった。
○病気になって医療費がかさむと、老後破産する?
「がんなど大きな病気になると、医療費が月に100万円もかかることがあります。3割負担でも30万円が必要。しかし、『高額医療費制度』を使えば、年収370〜770万円の方の月の負担額上限は約9万円。上限額を超えた約21万円は返金されます。負担上限額は年収によって変わり、70歳以上の方はもっと負担が減ります」
○親の介護で、自分の老後が危ない?
「寝たきり介護には費用がかさむ心配がありますが、介護保険があります。要介護度に応じた限度額まで、1〜2割負担で介護サービスが受けられます。夫婦ともに介護サービスを受けた場合、たとえば夫が要介護5で限度額36万円の介護サービスを受け、1割負担なら3万6,000円。妻は要介護1で月1万5,000円かかったとすると、世帯としての支払いは5万1,000円になります。このように、世帯の支払いが高額になった場合は『高額介護サービス費制度』が使えます。一般的な課税世帯では月3万7,000円が上限です。先の例では1万3,800円が返金されます」
○「65歳過ぎても働いて老後の生活を支える」は幻想?
’13年度から、希望する従業員は全員、65歳までの雇用延長が認められ、働く高齢者は増えています。多くの場合、いったん定年退職金を受け取り、嘱託などとして再雇用されます。収入や十分な預貯金があれば、65歳からの年金受給を遅らせる繰り下げ受給を選べます。70歳まで5年遅らせると、1カ月に0.7%加算されるので、年金は42%上乗せ、つまり1.42倍になります。ただし、早く亡くなれば損になることも。分岐点は82歳。81歳で亡くなると、65歳から定額をもらったほうが得になります。老後資金と健康に自信のある方にはおすすめです」
○賃貸住宅住まいでは、家賃で老後破産する?
「今、全国に空き家が820万戸、空き家率は13.5%と大きな問題になっています(’13年・総務省)。政府は、空き家にかかる固定資産税の引き上げを検討していて、実現すれば空き家はリフォームされ、中古や賃貸住宅の市場に出回るでしょう。数が増えれば値段は下がる原理から、家賃も今後はそれほど上がらず、選択肢が増えると思います」
○生活費がかさむ都心では、老後破産が近い?
「家計の見直しも大切ですが、生活コストの安い地方へのUターンやIターンも検討してみましょう。地方では、移住者を積極的に受け入れる自治体も多く、家賃などの補助や、仕事のあっせんも行っています。老後のために、医療や介護に余裕がある地域に移住するのも、一手だと思います」
最後に荻原さんは言う。
「老後は人生のゴールデンタイムです。65歳までに必要な準備をしたら、余計な心配をせず、健康で明るい老後を楽しみましょう」