image

4月26日で、チェルノブイリ原発事故から30年を迎えました。今年は福島原発事故からまる5年経つ年でもあるので、ある意味節目となる一年となります。わたしは1983年生まれですので、この人生で二度の原発事故を地球上で経験しています。核実験にせよ、原爆にせよ、原発にせよ、核の危険と常に隣り合わせとなる異常な地球時代。このような時代に生まれてきたことの意味や使命や役割についてよく考えます。今灯では、被ばくというものを改めて考え、それがいかに身近なものであるかについて、わたしの経験を基にお伝えしたいと思います。

チェルノブイリ原発事故後、国土の97%が放射能で汚染されたベラルーシ。この国において放射能被害にあった子どもたちの様子を映した「チェルノブイリハート」というドキュメンタリー映画があります。この映画のタイトルは、原発事故後に放射能の影響で変形した心臓を持った赤ちゃんが次々と生まれたことから付けられました。罪のない子どもたちが苦しむ姿を見る勇気がどうしても持てず、未だに観ることができていない映画です。

セシウムは、細胞の更新が少ない心臓に被害を及ぼしやすく、不整脈や心筋梗塞を起こしやすいことが分かっています。セシウムは筋肉に溜まりやすいので、筋肉のかたまりである心筋は影響が出やすいのです。体内での被ばく量が7.0Bq/kgを超えると、心電図に異常が出る傾向があるというデータもあります。また、心筋同様に眼球の網膜も細胞の生まれ変わりが少なく、影響が出やすい組織のひとつです。

Tokyo DD Clinicの内海聡医師は、インターネット上で発信しているニュースフィードで次ように述べています。「ウクライナでは次世代として生まれてくる子どもで、健康な子は6%であり、94%は何らかの障害をもって生まれてきます。飛蚊症や慢性胃炎も前兆としてはわかりやすく、ベラルーシで年間3ミリシーベルト以上の被ばくを受けた400人の子どものうち、60%に飛蚊症が見つかりました」と。この2~3年のあいだに、わたしの周りでは飛蚊症を発症した人が多く、わたしも原発事故の翌年に発症しています。注意すべき身体の変化のひとつです。

甲状腺の問題も深刻化する一方です。岡山大学大学院(環境疫学)の津田敏秀教授は、原発事故以前の日本全体と比べて、事故後の福島県内での子どもの甲状腺がん発生率は20から50倍になっているとする論文を発表し、県内において放射線の影響による著しい甲状腺がんの多発が起こっていると述べています。また、すでに多発の問題の論争段階は終わり、政府をどう認めさせるか、その説得の段階に入っているとも述べています。

今年2月に発売された月刊誌『世界』(岩波書店)で、「『チェルノブイリ被災国』の知見は生かされているか『ロシア政府報告書』から読み解く甲状腺癌の実態」というリポートが掲載されました。それについて毎日新聞が取り上げて、日本で広まっているチェルノブイリ原発事故後の知見と、実際に起きたことが異なることが判明しました。例えば、甲状腺がんを発症した年齢層です。チェルノブイリ事故当時5歳以下だった層が発症増加したのは確かではあるものの、それが明らかになったのは事故から10年以上経ってからで、事故直後にまず目立って増加し始めたのは、むしろ事故当時15歳から19歳の層や、20歳以上の層だったとのこと。これはウクライナ政府報告書に書かれていることとほぼ同じだそうです。つまり、甲状腺がんは幼い子どもたちだけの問題ではなく、中学生から大学生の若者や、わたしたち大人にとっても身近なことだったのです。このことを知っていれば、もっと注意して過ごせた人は多かったはずです。

被ばくを免れない社会・時代に生きていることをリアルに実感し、被ばくが他人ごとではなく自分ごとになった瞬間

わたしが初めて被ばく検査をしたのは2年前のことです。事故からちょうど3年経った2014年3月に、都内のクリニックでウクライナ製のホールボディカウンターを使ってチェックしたところ、7.7Bq/kgという数値が出ました。心電図に異常が出る目安となる7.0Bq/kgを超えていて、まさか自分がこんなに被ばくしていたなんて…とショックを受けました。しかし、測定してくださった方は驚く様子もなく淡々と次のように言いました。

「九州や沖縄や北海道など遠いところにお住まいの方も測定に来ますが、あなたの数値より高く出ることもあります。空気や食べものを通して、日本全国みんな多かれ少なかれ被ばくしているんです。測定しないからきづいていないだけなんです。あなたがいま妊娠したら、お腹の赤ちゃんも放射能の影響を受けますし、出産後の母乳にも放射性物質が含まれます。しっかり体外に排出してから新しい命を迎え入れた方がいいと思います。」

被ばくを免れない社会・時代に生きていることをリアルに実感し、被ばくが他人ごとではなく自分ごとになった瞬間でした。被ばく検査や甲状腺の検査は、どこにお住まいであってもぜひとも受けて欲しいと思います。そして、放射能そのものについてよく理解されていない方は、田中優さんのご本『放射能下の日本で暮らすには?食の安全対策からがれき処理問題まで』(筑摩書房)を読まれることをおすすめします。信頼できるデータに基づいた客観的な情報と、体系化された内容がとても分かりやすいです。

image

これだけの大惨事となる原発事故を起こしながら、まるで事故なんてなかったかのように振る舞い、再稼働を押しすすめる電力会社や政府。原発事故以前は厳しかった様々な基準がどんどん甘くなり、放射能安全神話が急速に広まっていることにわたしは危機感を覚えます。これからの時代は、大企業や国が誘導することに疑問をもち、市民一人ひとりが自立してしっかり身を守っていくことで、新しい時代が幕を開けると思っています。そのためには、脱原発にとどまらず脱被ばくを視野に入れることが大切です。目には見えない放射能だからこそ見抜く力が必要です。節目となるこの2016年に、ぜひ被ばくというものを他人ごとではなく自分ごととして一度捉えてみていただけたらと思います。

関連カテゴリー: