再ブームの予感がする韓国ドラマ。そんな“韓ドラ”の凄ワザを、『定年後の韓国ドラマ』(幻冬舎新書)の著書もある、韓国ドラマを15年間で500作品見た、作家・藤脇邦夫が読み解く!
【第20回】『師任堂、色の日記』ーーイ・ヨンエの新作、その価値と出来について
13年ぶりのイ・ヨンエの主演作『師任堂、色の日記』は、最近になって地上波BS放送とレンタルで、やっと一般的に視聴できるようになった。事前の情報通り、現在と歴史上の役柄がパラレルになった凝った設定になっているが、家庭を持っている主婦の、単なる美術講師から教授になるまでのサクセスストーリー的な内容であれば、おそらくイ・ヨンエがこの役を受ける可能性はなかっただろう。これまで積み上げてきたキャリアに付け加わるものは何もないからだ。
実際、イ・ヨンエに限らず、40代半ばの女優を主役にするのにふさわしい設定は現代劇ではなかなかあるものではない。かといって、いまさら単なる長編時代劇では、何のために、『チャングムの誓い』の続編の出演を拒んできたのかわからない。
だからなのか、このドラマはそんな期待に十分応えたもので、基本ストーリーの一部に『ある日どこかで』(’80年の米映画、原作はリチャード・マシスン)をヒントにしているのは間違いなく、500年の時空を超えたSF的な設定での過去と現在の交差は、従来のTVドラマではあり得ないような独自の内容構成になっている。そこに本人なりの価値観を見出したから出演に至ったのではないか。
「歌を忘れた金糸雀は〜」の倣い通り、もう一度歌を歌ってもらうにはそれなりの舞台を用意しなければならない。この作品はイタリア海外ロケから始まり、大学の研究室や海外の学会というアカデミズムの現場を通して、500年前の時代劇の世界にも移行する広大なスケールの構成を持つ。そして、アカデミズムの生態、SFファンタジー、時代劇という三種類の要素を溶かし込んだ、およそ韓国ドラマで考えつくだけの贅の限りを尽くしたものといえる。
まさしく、イ・ヨンエ出演のために、そのすべての期待と条件を満足させるために準備されたものだが、これが意外にも佳作に仕上がっているのは、やはり脚本を始めとしたスタッフの努力の賜物だろう。過去の遺跡、暗号等のヒントから、現在の謎を解くパターンは『ダ・ヴィンチ・コード』等でもよく見られる設定だが、そのキーワードを国宝級の絵画にしたところが非凡であり、イ・ヨンエはこの大役に見事に応えている。少なくとも13年ぶりの復帰作として、その名誉は守られたというべきだろう。