地域デビューを妻が後押しー。川崎市麻生区に、シニアライフを楽しむ男性の会「おやじ考」がある。今年で活動開始から27年目となり、メンバーの平均年齢は70歳。当時、現役の会社員だった“おやじ”らが妻の強い勧めから偶然出会い、今に至る。同会は退職後の生き方について、家族とともに現役のうちから準備することを提案している。
麻生市民館の料理室に10日、会員の半数に当たる16人のおやじが集まった。毎月の例会はスポーツや歴史学習、地域行事への参画など多彩だが、この日は皆で天ぷらを揚げた。野菜や魚介などを中心に、計13品を仕上げた。
この日の料理は“使命”を帯びていた。それは、揚げたての天ぷらを妻にも食べてもらうこと。朝から準備を進め、昼すぎに妻らを招き入れ、1種ずつ揚げながら2時間かけてもてなした。「プロ級の味」「家ではできない」などと称賛の声が相次いだ。幹事を務めた元商社マンの深津泰秀さん(69)は「喜んでもらえるよう、おいしい揚げ方を調べ、レシピを考えた」と満足げ。妻の笑顔と褒め言葉は、会員にとって一足早い、父の日のプレゼントとなった。
会は1991年に同館が主催した家庭教育講座「男とおやじの家族考」の受講者が、修了後に結成した。これには裏話がある。旅行代理店を経営する久保田洋治代表(67)は「最初は受講者が集まらず……」と明かす。理由は対象者が仕事で忙しく、週末は家でのんびりしたい40代の男性だったため。そこで同館は、既に地域で活動している妻らに「旦那さんを連れて来て」と頼んだ。結果、妻に引っ張り出された夫ら約30人が渋々の受講。久保田代表もその一人だった。
最初はぎこちなかったおやじらも次第に打ち解け、会話が弾み、盛り上がった。久保田代表は「名刺交換と年齢を聞くことを禁止し、序列のない交流にしたのが長続きの理由」と振り返る。互いの経歴を知ったのは数年前のことという。
機械メーカー勤務だった田中義朗さん(71)は調理の手を休め、「当時は40代。休みの日はソファに寝転びつつも、休日の過ごし方を何とかせねば、と思っていた」。妻の真紀子さん(67)は天ぷらを堪能しながら「参加を促して本当に良かった」と喜び、「地域と無縁だった夫が、今ではボランティア活動も行う。家でも話題が豊富になった」。
久保田代表や田中さんは実体験を基に、男性の「自分探し」は退職後でも遅くないが、現役時代から家族の助言も参考に準備しておく方が、より地域との関わりが深まると、口をそろえる。
同会は月例会のほか、毎週土曜に朝のウオーキングや野菜作りも楽しむ。「お試し参加」のほか、最近は女性も入会している。問い合わせは久保田代表電話044(989)2911。