「経済制裁が行われるまで、日本と北朝鮮は貿易を行っていました。’04年、日本の輸出額は95億円、輸入額は180億円もあったんです。その後、経済制裁によって段階的に貿易量が減り、’10年から輸出入はゼロとなりました。過去の取引もあるので、仮に制裁が緩和されれば、すぐに貿易は再開できるでしょう」
そう話すのは、生活経済ジャーナリストの柏木理佳さん。6月12日、シンガポールで行われた米朝首脳会談。北朝鮮が瀬戸際外交から経済開放にかじを切れば、日本の家計にも大きな影響があるという。
「北朝鮮はエビ、カニなど甲殻類の漁獲量が多く、ウニも豊富。かつてはズワイガニを日本に輸出していました。こうした食材が日本に輸入されれば、国産よりもかなり低価格になるはずです」(柏木さん)
また、マツタケも、かつて北朝鮮の外貨収入源だった。経済評論家の加谷珪一さんは、「中国と並ぶ一大産地です。流通量が一気に増え、価格破壊を起こすかもしれません」と語る。
さらに、北朝鮮は潜在的な経済成長力を持っていると評価するのは、第一生命経済研究所の首席エコノミストの永濱利廣さんだ。
「人口2,500万人の北朝鮮は、世界でも希有な経済発展途上国です。一人当たりのGDPは、隣国の韓国に比べて20分の1しかなく、成長する余地が非常に大きい」(永濱さん)
北朝鮮は意外にも繊維工業が盛んなのだという。
「金委員長が縫製工場を視察する様子を国営放送が報道していますが、縫製技術は非常に高いんです。縫製工場の人件費は1時間で10円ほどといわれていますので、ユニクロなど、安い労働力を求める企業は、注目していると思います」(柏木さん)
日本で“メイド・イン・ノースコリア”と書かれた洋服が流通するかもしれない。さらに、北朝鮮の野菜が流通する可能性も。
「北朝鮮は飢餓に苦しんでいるように、農業技術は遅れていますが、今回の米朝首脳会談の立役者であるポンペオ米国務長官は、農業開発への投資も明言しています。国内の食糧事情が改善されれば、北朝鮮は輸出にかじを切るでしょう。何より生鮮食品は、収穫から店頭に並ぶまでの時間と距離が勝負です。北朝鮮—日本間ならば問題はありません」(加谷さん)
農業と同じように、天然資源にも大きな可能性が秘められている。
「手つかずの北朝鮮は100種類以上の鉱物が埋蔵されていると見られています」(柏木さん)
注目されるのは、電子機器に使用されるレアメタルだ。
「主に日本は中国からの輸入に頼りきりで、常にレアメタルは不足しています。北朝鮮が新たな輸入先となれば、安定供給が望めます。それがいずれ製品価格にも反映されるでしょう」(加谷さん)
物資の輸入が増えれば、人的な交流も盛んになる。
「一時、日本に大量の難民が押し寄せるのではないかと懸念されていましたが、まずは同じ文化・言語の韓国への流入が先になります。それよりも、これまでハードルが高かった北朝鮮へのツアーが増えたり、韓流タレントのように、両国の文化交流は活発化するでしょう」(加谷さん)
あらゆる業種で日本企業に、ビジネスチャンスが訪れる。
「特権階級が住む平壌では、中古の日本製トラクターやオートバイ、白物家電のニーズは高いです。デパートには日本製の化粧品、お菓子や清涼飲料水が陳列されており、人気です」(柏木さん)
以上のように、北朝鮮の経済開放によるプラス面は大きいようだが、決して全面的には信用できないのが、やはり北朝鮮。
「昨年まで日本列島の上空にミサイルを飛ばしていた国です。核廃棄協議が失敗に終われば、強硬姿勢に出るリスクもあります。そして何より、拉致問題が解決しなければ、すべてにおいて前進しません」(永濱さん)