『相棒 Season17』(テレビ朝日系)に登場したキャラクター“シャブ山シャブ子”が賛否両論を呼んでいる。
11月7日放送の第4話では、重度の薬物依存症者の女性によって刑事の一人が撲殺されるシーンがあった。取り調べでは43歳の主婦なのに「シャブ山シャブ子です! 17歳です!」と自称。幻覚に取り憑かれたかのように髪を振り乱す様子が”怪演”と話題になった。
一方で専門家からは異論が相次いだ。20年以上も薬物依存症の治療に関わってきた精神科医の松本俊彦氏(51)は『プレジデントオンライン』への寄稿で《あんな覚醒剤依存症者はいません》と断言。《偏見に満ちたイメージを人々に植え付けた結果、国内各地では、依存症リハビリ施設建設の反対運動が起きています》と警鐘を鳴らした。
しかしTwitter上では《あくまでフィクションでしょ?》《それぐらい薬物が怖いっていう印象はあったし、問題ない》などと、専門家の意見を受けつけない声が多い。
日本の芸能界で薬物依存症に悩んだ人といえば、まっさきに名前が挙がるのが田代まさし(62)だ。’01年に逮捕されると、その後2度も刑務所に入った。田代が薬物から離れられなかった大きな原因が、社会と田代自身に植えつけられた薬物依存症者への偏見だったという。田代は’16年12月に出演した『Session-22』(TBSラジオ)で次のように告白している。
《まず正直になることから始めないと回復はないですよ。だって、やめられないって言える社会じゃないじゃないですか?》
日本では「人間やめますか」の標語に象徴されるように、薬物依存症者を病者ではなく“犯罪者”“人間以下”と見なす傾向が強い。田代は1度目の出所後も「薬物依存症者のマーシーです」と自己紹介することに強い抵抗感があったという。
薬物依存症者=犯罪者というレッテルに縛られて自身の薬物依存に向き合えなかった田代。そして握手会にやってきた男性に覚せい剤の小袋を握らされ、薬物依存に逆戻りしてしまう。
2度目の出所後、そんな田代の意識を変えたのが薬物依存症者の回復を支援する施設『ダルク』だった。ダルクで回復途上の薬物依存症者たちと出会い、お互いの経験を話すことで《(薬物に手を出すことは)2度とないですよって前は嘘ついてたけど、ちょっと自信ないかもしれないって言えるようになった》という。それが回復への第一歩だった。
ダルクで薬物と向き合うことができた田代は《社会にいたら、ずっと嘘をつき通さなきゃいけない。正直に「またこの間もやりたくなっちゃったよー」って言える、楽な場所に、自分の意志で、自分の思いでそこに自らいることが大切》と語っている。
ダルクの中だけではなく、社会全体が正直に話せる環境であれば、田代の薬物依存からの回復ももう少し早かったかもしれない。「シャブ山シャブ子」論争は、日本社会に植えつけられた薬物依存症者への偏見を問い直す契機になるのだろうか――。