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「樹木希林さんにスタッフが『何か飲みますか?』と聞くと、『飲みたかったら自分で頼むわよ』とおっしゃって。気遣いの形も、みなさんを心配させないような、さりげなさがありました。一方で孤高の、簡単に声はかけられない、人を寄せ付けない空気もありました」

 

そう振り返るのは、ドイツをはじめ海外で活躍する舞踏家・ダンサーの入月絢さん。’08年にドイツで公開された映画『HANAMI』に準主役のミステリアスな日本人少女でダンサー役として出演。

 

その続編『満開の桜と妖精』(来年3月にドイツで公開。日本では配給会社が未定)で、尊敬する希林さんとの共演を果たした入月さんが、本誌に貴重な撮影時の思い出を語ってくれた。

 

本作では、日本でビジネスマンとして働いていたが、ドイツに帰国後、生き方を見失った青年(ゴロ・オイラー)の前に、かつて日本で会ったダンサーのゆう(入月)が現れて、ともにゆうの祖母(希林)のいる日本に向かう……。

 

「希林さんは私の祖母で、旅館『茅ヶ崎館』の女将役でした」(入月さん・以下同)

 

撮影現場も、出演者やスタッフが宿泊したのも、神奈川県にある和風旅館「茅ヶ崎館」だった。全身がんを患いながらも、希林さんの役に向きあう姿には、すごみがあったそう。

 

「カメラが回っていないと、とてもしんどそうなのがわかるんです。椅子に静かに腰をかけて、おしゃべりもせず、じ~っと一点を見つめて、芝居について考えられていました。つらさを覆すような、その集中力がすごくて。芝居をはじめるときには、監督がいろいろ言っても、じっくり考えた後に『じゃあ、やってみましょうかね』と、ご自分の中で消化してから演じられていて。真摯に生きている姿がひしひし伝わってきました」

 

最後まで女優を貫いた、希林さん。この映画でも、魂を揺さぶる渾身のセリフがあるという。

 

「生き方の指針を見失ったドイツ人の主人公の男性に向けて、女将役の希林さんがたった一言、『ロンリー(寂しい)?』と、カタコト英語で手振りをつけて言うんです。希林さんの、優しさ、悲しみ、切なさと人生のあらゆるものが含まれた一言に、共演者、スタッフもみんな『すごかった』と号泣していました。また、スノーボールを手に持ち『ゴンドラの唄』を歌われる場面の演技にも、みんな感動して泣いていました」

 

撮影の合間には、『万引き家族』の撮影が寒かったこと、カンヌ映画祭にも、「私はコロコロ(おばあちゃんが持つ小さなカート)一つでカンヌまで行ったわ」と、楽しく語ってくれたという。

 

だが、旅館の部屋も隣だった入月さんは、撮影中の希林さんの体調が気になっていた。

 

「夜遅くに何度もせき込まれていました。深夜もお部屋に明かりがついていて。スタッフも皆、希林さんを気遣い、静かに過ごしました」

 

撮影を終えた希林さんを、関係者総出で廊下に並び見送った。

 

「希林さんは、撮影終了後に人に話しかけることはないそうですが、主演のゴロに、『あなたのように若いのに熱心な俳優さんとお仕事できてうれしかったわ』と、声をかけていて。私は、彼がうらやましかったです(笑)」

 

撮影からわずか2カ月後の9月15日、希林さんは家族に見守られ永眠した――。

 

「ダンサーの私が、希林さんと同じスクリーンに登場するのは楽しみ半分緊張半分です。希林さんは、一言で人の感情を揺さぶる異次元の人。希林さんとご一緒したこの体験を宝物に、表現者としてやっていきたいです」

 

希林さんの遺作で見せた渾身の演技――。日本での公開が待たれる。

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