「世界一怖いヨーロッパのなまはげパレードを見に行かないか」
そうカメラマンから誘いを受け、フィンランド航空ヘルシンキ経由でドイツ・ミュンヘンへ。さらに2時間ほどバスに乗り、着いたのはオーストリアの古都ザルツブルクだ。
ザルツといえば、モーツアルトが生誕し愛した音楽の聖地、近郊には世界一有名なクリスマスキャロル「聖しこの夜」発祥の地もある。世界遺産でもある中世の美しい街並みに、なまはげは似合わぬような……。到着の夜、カメラマンと名物の白ビールとシュニッツェル(子牛や豚のカツレツ)を食している途中、その化け物はいきなり現れた。
「ガラン、ガラン、ガラン」というカウベルの音。サンタのモデルといわれる聖ニコラウスの後ろに現れたのは、3頭の不気味な化け物。顔が近づく、頭を触られ、鞭のようなモノで叩かれる。声も出せず、自分の身体が反射的に後ずさる。怖い。おぞましい、ゾッとする。日本のなまはげと違って、大人でも泣きそうなレベルだ。これぞ、クランプス。悪魔の化身。ヨーロッパ伝説のモンスターとの対面だった。
同行してくれたクランプス・ジャパン代表の吉田宏氏がこの奇なるモンスターの魅力を解説する。
「クランプスはオーストリア中東部、ドイツ東南部、ハンガリー・ルーマニア北部において、クリスマスシーズン(概ね11月下旬〜1月上旬)に欠かせない白銀のモンスターとして愛されています。その不気味な存在は恐ろしい風体ながらも、実は心優しい聖ニコラウスの付添い人。悪い子どもを正すため“おしおき”をしてまわる、というミッションを持っています。一体一体すべて手作りで、最近は新進のアーティストによる様々なクランプスが誕生しています。老若男女問わず、宗教、人種を超えて末永く愛されているのです」
12月5日夜、オーストリア・ザルツブルク旧市街。華やかなクリスマスマーケットの屋台が立ち並ぶ中、群衆は冷えた身体を名物のグリューワイン(香辛料入りホットワイン)で温めながら、今か今かと待つ。そして18時過ぎ、太鼓やカウベルの音ともに歓声があがる。数キロに及ぶクランプス・パレードだ。
地域やコミュニティーの十数人が一団となり、自慢の衣装と亡霊ぶりを競い合う。一団一団ごとに風体や振る舞い方が違うのが楽しい。一体たりとも同じものはなく、子どものクランプスもいる。特に女性や子どもはご用心。鞭でビシビシ(長い毛のようなモノなので痛くない)、頭髪を手でグシャグシャにかき回す。ふと横を見れば、カメラマンのスキンヘッドにはべったりと墨がつけられていた。クランプス・ジャパン代表の吉田氏が続ける。
「クランプスは半人半ヤギで2本ツノ。多角ツノの彼らは仲間ではありますが、ペルヒテンという別のモンスターになります。それにしても、なまはげソックリでしょ。いで立ちや目的も似ていることから『なまはげの起源はヨーロッパのクランプスなのでは?』という民族学者もいます。1,600年前に生まれた西洋の仮面をつけたお祭りや儀式が、何百年もかけて日本に伝わり世界遺産に認定されたかと想像するとワクワクしますね」
ザルツブルク市観光局
http://www.salzburg.info/ja