毎年恒例、年末年始の人気企画、麗人・美輪明宏さん(83)による愛のメッセージ。今回のテーマは「新時代を生き抜く知恵」。来年5月の改元で、日本は新時代へと突入する。「昭和」と「平成」という激動の時代を強く生き抜かれた美輪さんが語る、希望の持てる未来とは--。
最近は、“新しいからいい” 、“古いから悪い”といった風潮がありますよね。
そもそも新しいとか、古いとかを、良しあしの判断基準にしていること自体がおかしい話です。じゃあ、ミロのヴィーナスやモナ・リザの絵は古いからよくないのですか?
そんなことはないわけだし、もし、流行遅れだなんて言ったら笑われますよ。
文明や文化がどんどん進化しても、いいものはいつまでもいいままで残り、色あせないのです。
日本の古きよき時代には、素晴らしい文化がありました。
ファッションにしても、そう。戦前までは自由で、長髪の男性もいたし、ラッパズボンをはいている人もいました。
“モダンボーイ”“モダンガール”なんて言葉もはやりました。そのまま行けば日本は、世界有数の耽美的なおしゃれな国になっていたはずです。
ところが、その後の戦争で軍人たちが、“文化は軟弱である。国策に反する”と、進化をストップさせたのです。
女性がおしゃれなワンピースなどを着ていると、憲兵に連行されて、強制的にもんぺに着替えさせられたり……。
音楽もクラシック、ジャズ、シャンソン、タンゴ、流行歌、すべてダメ。
戦時歌謡と軍歌以外は歌ってはならない。そういう状態が、敗戦まで5年間ぐらい続いたわけです。軍人たちが戦争さえ起こさなければ、日本はありとあらゆる分野で、世界的な文化国家になっていたでしょう。
彼らの罪は本当に重いですよ。
以前、あるフランス人のデザイナーに「日本の文化をどう思う?」と聞いたことがあります。
すると、「フランスの文化が世界一だと思っていたけど、日本にはかなわないと思った」と。その理由を尋ねると、「平安時代の十二単の色の数の多さ」だと言いました。
日本の十二単の色の数は、ざっと数えて約500種類もあります。
たとえば、御納戸色、朱鷺色、そして水浅葱や浅葱色といった、とても詩的な名前が付けられています。
そのデザイナーは、「日本人のデリカシー、その美意識の高さには、とても歯が立たない。このような国はほかにない」と言ったものでした。
日本人の繊細さ、美意識の高さは誇れるものです。