「女性を好きになったことはないんですか?」と聞かれることがあります。中学の時、周りが男女の恋愛話で盛り上がり、付き合うことにあこがれを持った私は同級生の女子に一度だけ告白したことがありますが、その経験を除けば女性とお付き合いしたいと思ったこともなく、好きになるのは男性のみです。
ある調査結果で、ゲイであることを何となく自覚する平均年齢は13・1歳というデータがあります(日高庸晴ほか、厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究推進事業「ゲイ・バイセクシャル男性の健康レポート2」)。
私の場合は小学校5年生くらいから男性に性的な興味を持ったり、好きという気持ちを持つようになりました。
しかし、岡山県の山間部の田舎で酪農家の息子として生まれた私にとって、ゲイという言葉の存在も知るすべもなく、周りには男女のカップルしか存在しなかったので、自分が何なのかもよくわかりませんでした。
中学の頃「ゲイ」というカテゴリーを知り、恋心を抱く男性もいて、自分が男性を好きなゲイだと自覚するようになりましたが、絶対にばれてはいけないことだと思い、女性を好きなふりをしていました。今では一般的に差別語とされる「ホモ・おかま」という言葉も、当時のテレビでは普通に使われていましたし、芸能人の秘密を暴くといった趣旨の番組ではイニシャルトークで「男性芸能人の○○はホモ疑惑がある」と言われ、「え~、気持ち悪い!」といったコメントがたくさん流れていました。
学校でも「○○君はホモなんじゃない?」と噂されたり、笑いの対象になっていました。そうした環境にいた私は、あんなふうに笑われたり、バカにされるのは絶対に嫌だと思い、高校時代は鏡に映る自分に「男性を好きだということは死ぬまで秘密にして墓場までもっていき、一人死んでいくぞ」と言い聞かせていたことすらあります。
「悩んでいるのなら誰かに相談すればいいのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、男性を好きだということは誰かに相談できることだという発想すらなく、受け入れることもできず、ひたすらばれないようにふりをして生きていたのです。口に出すなんて考えられませんでした。
好きという気持ちは自然に心の中から生まれ、本来であればその人を元気にしてくれたりする素晴らしい感情だと思います。しかし当時の私にとって「男性を好き」はばれてはいけない、自分の人生を困らせる受け入れがたいものでした。カミングアウトをした22歳の頃までこうした自己否定は続いたのでした。
(2019年1月8日 琉球新報掲載)
たけうち・きよふみ 岡山県津山市出身、沖縄県在住。レインボーハートプロジェクトokinawa代表。LGBTをテーマに学校講演会を数多く行う。