「『あまちゃん』やこれまでの大河に負けないくらい、いろんな音楽の仕掛けや実験をしています。作った曲も、200曲を超えました」
1月6日からスタートしたNHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の音楽を担当しているのが大友良英さん(59)。ドラマは、中村勘九郎(37)演じる「日本初のオリンピック選手」の金栗四三と、阿部サダヲ(48)扮する「初めて日本に五輪を招致した男」田畑政治を主人公にして、明治から昭和にかけて激動の半世紀を描く。
大友さんは、’13年の連続テレビ小説『あまちゃん』の音楽も担当したギタリストで音楽家。社会現象にもなった『あまちゃん』では、オープニングテーマはじめ、劇中歌やサントラも異例の大ヒットで、大友さんも日本レコード大賞作曲賞に輝いた。
また今回、『いだてん』の脚本を宮藤官九郎(48)が手がけ、出演者にも小泉今日子(52)らが名を連ねるなど、『あまちゃん』メンバーたちの再結集も話題だ。ドラマに負けない“とつけむにゃあ(とんでもない)”『いだてん』音楽誕生秘話を、大友さん本人が語った。
■サンバや三味線……世界をつなぐ多様な音楽
「『あまちゃん』で出てきた言語って、東北弁と東京弁でしたが、今回は、オリンピックが舞台で世界規模で言語の違う人がいっぱい出てきます。共通の文化がない人同士をつなぐ、多様な音楽を意識しました」
サンバの打楽器や三味線など和洋の音が混ざり合う。
「つなぐということでは、主人公だけでなく、背後にいる大勢の名もない市井の人々の気持ちを代弁するものに、音楽はするべきだということにも気付いたんです。『オリンピック? それより食うのに精いっぱいだよ』という人たちですね。また、改めてスポーツについて考えるなかで、現代はスポーツでも音楽でも何でもが先鋭的になって、社会全体が“アスリート化”しているように感じました。技術を突き詰めすぎて、たとえるなら、掘り続けた穴が深くなって、周囲が見えなくなっている。基本は分断状態になりますから、それをつなぐ音楽を作っていきたいという気持ちも出てきました」
とはいえ音楽は、決して万能ではないとも。
「音楽が平和といわれますが、とんでもない。軍歌がいい例で、国威発揚の劇薬にもなるわけです。スポーツも似てるなと思って。だって、スポーツなのに国を背負ったりするでしょう。実際に過去にはオリンピックも利用されたこともある。このドラマでは、第1話からその矛盾もしっかり描かれているのがいい。今の段階では明るい印象のドラマですが、それだけでは終わりません。これから、関東大震災や2度の世界大戦も出てきます。僕らの世代は戦争は知らないけれども、東日本大震災を経験している。戦争を止めるためにオリンピックが始まったところもあるわけですし、その本来の意味を、このドラマを通じて考えなおす機会になればいいと思うんです」
■’60年代から活躍する大御所ミュージシャンが登場
「実は、個人的に東京オリンピック参加の記憶があります。’64年当時、横浜在住の幼稚園児で、前年のプレ五輪に駆り出されて。三ツ沢球技場で行進しながら、先生の合図で手にした風船を放さなければいけないのを、僕だけ家に持って帰りたくて、『イヤだ!』ってゴネたんですよね(笑)」
最後に、今後の音楽の展開プランについて明かす。
「この先、東京オリンピック前後が描かれるときには、’64年ごろから活躍しているミュージシャンに参加してほしくて、大御所からマニアックな人まで、腕こきの方たちにも声をかけています。あと、宮藤さんのドラマの持ち味は、脇役にも感情移入できること。僕自身、すでに人力車夫の清さん(峯田和伸・41)や、治五郎の下であたふたしている助教授の可児さん(古舘寛治・50)のことが、ファンレターを書きたいくらい好きだから(笑)。そんな脇役たちのテーマ曲も次々と生まれるかもしれません」
今後の物語で女性へのスポーツ普及にも尽力する金栗。その女子選手を演じる新キャストも気になる。
「最近あまり言われることがなくなりましたが、“参加することに意義がある”というオリンピック精神の神髄を、音楽でもやり切りたいですね」