ワシントンDCでの生活で何度か、ボランティアをする機会がありました。きっかけは、LGBTQ(レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなどの性的少数者の総称)の権利や支持を示す6月のプライド月間の情報が知りたいと、DCセンター(The DC Center for the LGBT Community)のニュースレターに登録したことでした。DCセンターは年間を通して、LGBTQの健康福祉や文化、ピアサポート、コミュニティー構築などの分野でさまざまな支援活動を行う団体。10代の若者から高齢者まで、対象の年齢層も幅広く、多様な人種や宗教に応じたグループなどもあります。
プライド月間の華やかなパレードを見に行くだけでなく、自分でも何か気軽に参加できることはないかとニュースレターに目を通していると、ある活動を見つけました。エイズやHIV感染、がんなどの闘病生活を送っている人々に無償の配食などを行う団体、フード&フレンズ(Food & Friends)でのボランティアでした。
レインボーカラーに染まったアメリカのPride月間 ◇アメリカから見た! 沖縄ZAHAHAレポート(3)
届けるのは「健康と希望」
フード&フレンズはワシントンDCの北東地区に拠点を置き、DCと近隣のメリーランド州、バージニア州の利用者に、栄養価を計算した食事や調理しやすい食材の配達などを行っています。1988年、教会の地下室を拠点に20人のボランティアが利用者60人への配食をスタート。それから30年余りたった現在は、約3000人の利用者に年間約86万食を届けるまで広がっています。スタッフ56人に対し、ボランティアは約8500人。食事を通して「健康と希望」を届けます。2013年には、当時のオバマ大統領もボランティアに参加したようです。(フード&フレンズでボランティアするオバマ大統領(当時)の様子)
DCセンターを通した毎月第4土曜の活動は、参加のたびに違う作業がありました。果物やパン、乳製品などの食品を袋に詰め込む作業や、糖尿病など症状に応じた種類の食事のシール貼りなど、スタッフの指示に応じて黙々と作業に取り組みます。私自身が特別なことができるわけではないし、利用者と顔を合わせることもありません。でも、土曜朝の数時間を「誰かのために」過ごすことは何物にも代えがたいものでした。
団体の活動の使命は、(1)深刻な病を抱える利用者に、必要な栄養と医療を勘案した食事や食材を届ける(2)栄養指導や健康の啓発を通して、利用者の生活の質(QOL)を向上させる(3)利用者とボランティア双方に強いコミュニティーの意識を生み出すことで、病気による社会的孤立を減らす―の3つ。利用者の約3割がHIV感染やエイズ、約5割ががんと闘っています。利用者の68%が月1500ドル以下で暮らしており、今も毎月約100人ずつ利用者は増え続けているそうです。
ボランティアに参加するのは、職場、教会などの団体、個人、学生グループなどさまざま。みな楽しそうに、そして真剣な表情でそれぞれの作業に取り組みます。何度目かのボランティアの日、トゥアン・ブイさんと知り合いました。95年からフード&フレンズの活動に参加している彼は、子供の頃に両親と共に地元の教会の活動に参加して以来、さまざまなボランティア活動に参加し、「ボランティアは私の人生の大きな部分を占めてきた」と笑います。
90年代にゲイだとカミングアウトしてからは、「社会から取り残され、差別されてきたLGBTを支える活動により集中するようになった」と話し、全米最大のLGBT人権団体ヒューマン・ライツ・キャンペーンや若者の支援団体などの活動にもこれまで参加。同性婚した夫と共にフード&フレンズのボランティアに訪れる日もあります。
高齢者も集い、笑顔の場に
ブイさんの勤務する通信大手AT&Tの社内LGBTグループ、リーグ(League)の活動にもお邪魔させていただく機会がありました。リーグは87年に発足し、米国企業の中でも歴史のあるグループ。今回、彼の所属する支部は、DCセンターが毎月1回開催する高齢者向け昼食会のボランティアをすることになりました。
DCセンターに集まった約20人のお年寄りがテーブルを囲む中、サンドイッチや飲み物を手渡します。食事とおしゃべりを楽しんだ後は、お楽しみのビンゴゲーム。数字が読み上げられるたびに、歓声やため息でにぎやかに。ビンゴに当たらなかった人も、シュープリームスやフランク・シナトラのトリビアの正解で笑顔があふれる時間でした。友人と折り鶴を作り、ビンゴの当選者にプレゼントすると、「ORIGAMI!きれいね。ありがとう」と喜んでもらえました。仲良くちょこんと座る黒人女性2人に「どうぞ」と折り鶴を渡すと、「ペアでもらえて嬉しいわ」「1人じゃ寂しいものね」と話す姿が印象的でした。
「分断の国」での握手
会場の片付けを最後までしていたドナルド・バーチさんは、2年前に臨床社会福祉士の仕事を定年退職して以来、高齢者グループのメンバーかつボランティアとしてDCセンターに毎週訪れているそう。「家から歩いて来られるし、スタッフもみな楽しい人たち。難民申請をしているマイノリティーの支援グループにも参加している。黒人のゲイ男性として、こういう活動に参加することはとても大事だと思っている」と話します。
こちらが話を聞いていたはずが、逆にたくさん質問も受けました。「同性愛に対して日本社会はどうなの?LGBTQに対して支援しようとしているの、反対しているの?」「同性愛者だと公表している影響力のある人はいないの?セレブや芸能界とかも含めて?」
高齢者グループの普段の活動はもちろん、サンクスギビングデーの祝日の際には、家族や友人が近くに住んでいない人同士で集まり、夕食を共にするそうです。米国のサンクスギビングデーやクリスマスは、日本でいえば正月や盆のように、家族・親族で集まることの多いホリデイです。「人々が孤立しないよう、いつでも帰って来られる居場所のようなもの。自分がコミュニティーの一員だと感じることができ、一緒に楽しい時間を過ごせる」と、バーチさんは言います。
あなたにとってボランティア活動とは、と尋ねると「ポジティブな方法で自分自身を忙しく活動的にさせながら、こうやってあなたと今日出会えたように、新しい人々との出会いがあるのが楽しみよ」と笑い、大きな温かい手で握手をしてくれました。
アメリカでも日本でも、「社会の分断」と言われて久しい気がします。強大な権力が集中するワシントンDCでは、大統領の言動や与野党の対立ばかりがニュースになります。でも、日々の暮らしに目を向けた時、生きづらさを抱える人を孤立させない、安心できる居場所をつくろうと手を携え合う人々の姿がしっかりとあることに、ほっとします。年齢や性別、人種、性的指向、病に関わらず、1人1人が自分らしく生きられる権利を守ろうと、声を挙げ、行動し、人々がつながる姿に、この国の真の力を感じるのです。
座波幸代(ざは・ゆきよ)
政経部経済担当、社会部、教育に新聞を活用するNIE推進室、琉球新報Style編集部をへて、2017年4月からワシントン特派員。女性の視点から見る社会やダイバーシティーに興味があります。