相続に関する法制度が、今年1月から段階的に変わっている。じつに40年ぶりとなる大改正により、高齢化社会に対応したルールが順次導入されていくことに。相続問題に詳しい行政書士の竹内豊さんは“妻の権利の拡大”に注目する。
「夫の死後、妻が1人で生きていく時間は長いので、今回は“残された妻”を保護するための改正が多いのが特徴です。自宅に住み続けるための権利や、介護の貢献によって相続人に金銭を請求できる権利など、妻の権利が広がることになります」
大改正の目玉の1つが、来年4月にスタートする『配偶者居住権の創設』。
夫が亡くなり、妻と息子2人が財産を相続する場合、現行の制度では、妻が自宅に住み続けたいと願ってしまうと、生活が成り立たなくなったり、反対に追い出されたりしてしまうことさえあった。
相続コーディネーターで、「夢相続」代表の曽根恵子さんが解説する。
「たとえば、3,000万円の自宅と預貯金3,000万円を残して夫が亡くなったとします。相続する割合(法定相続分)は妻が2分の1、2人の子どもで2分の1になるので、妻が『これまでどおりに自宅に住み続けたい』と望み、3,000万円の自宅を相続してしまうと、預貯金は子どもたちが相続することになります。すると妻は預貯金が受け取れず、手元の現金が不足することで生活が成り立たなくなるケースがあったので、夫に先立たれた妻が安心して生活できるように『配偶者居住権』が来年4月1日から施行されます」(曽根さん・以下同)
施行後は自宅を「居住権」と「負担付き所有権」に分ける。居住権と所有権をそれぞれ50%と仮定すると、妻の居住権が1,500万円となるので、預貯金は妻と子どもたちでそれぞれ1,500万円ずつ配分され、妻も現金を得ることができる。
「所有権の配分は相続人の間で決めます。居住権については、現時点では妻の年齢が若いほど高くなる評価方法が検討されています。高齢の妻ほど、居住権の金額が少なくなるということは、それだけ受け取れる現金が増えるので、居住権の活用は、終の住処と考える70歳以上の妻にとってメリットが大きくなるといえます」
ただし注意点も。「配偶者居住権」を選択すると、妻が死ぬまで自宅で住み続けられるが、その一方で、売却しづらくなるのだ。
「たとえば妻が後日『自宅を売却したお金で介護施設に入りたい』と言い出したら、所有権を持つ子どもの同意がないと簡単には売却できません。また毎年、自宅にかかる固定資産税は所有者に請求がいきますので、子どもたちが『所有権』を取得したら子どもたちが支払うことになります」
「配偶者居住権」を選択したことで新たに生じる負担を確認するとともに、「いつまで自宅に住み続けるか」といったことも含め、家族で話し合っておくことが大切だ。