映画にドラマに舞台にと、出演作はゆうに300本を超える。日本を代表するバイプレーヤーとして、超多忙を極める俳優の六平直政(64)。
「Vシネマだけで300本ぐらいやったから、もっと出てるんじゃない。マネージャーにも『分刻みで仕事取ってこいよ。家で休んでるのは大嫌いなんだから』って言ってて(笑)」(六平・以下同)
最新作は日露合作映画『ソローキンの見た桜』(愛媛県にて先行公開中。3月22日より角川シネマ有楽町ほかにてロードショー)。日露戦争の最中、愛媛県松山市に実在したロシア兵捕虜収容所を舞台に、日本人看護師とロシア兵との許されぬ恋を描いた一大ロマン。六平が演じるのは家業存続のため、娘を資産家に嫁がせようとするヒロインの父だ。
「日露関係があんまりうまくいってない今だからこそ、こういう作品を作るのはお互いの国にとってもいいと思うね。芸術というのはボーダーレスで国境がないということを一般の人にも感じてもらいたい。それに、旧態依然とした日本社会の娘が敵国の兵と恋に落ちるというストーリーもいいじゃない」
これが2作目となる井上雅貴監督とは、’05年に六平が出演したロシア映画『太陽』のメイキング班監督として出会ったという。
「雅貴とはロシアで一緒にご飯も食べたし、その現場で彼はロシア人通訳の女性と恋に落ちて結婚したのよ。そのころに『おまえが映画監督になったら俺が出てやるから』と約束したんだって。言ったのかな? ……確かに言った(笑)」
そんな言葉に、共に現場を過ごしたスタッフへの愛情を感じる。
「役者は誰が出たって一緒。やっぱり、いい演出家、いい監督、いい本書きと出会うしかないよね」
作品の大小を問わず、仕事を重ねてきた六平だが、俳優を続けていく自信を得たのは40代になってからだという。無名時代を共に歩んだ盟友に大杉漣がいた。
「当時は、お互い役者とも知らず、バイト先で出会った20代の働く若人。夜中の横浜『そごう』で一緒に売場の吊り案内をかける仕事をやってた。類は友を呼ぶのかな」
役がかぶって取り合うこともあったが、その大杉も昨年急逝した。
「いまは俺とかぶる役者もいなくなって。かぶるのはお笑いの小峠。俺を縮こませたみたいな男だなと。役者じゃないから、俺の足元にも及ばないけどね(笑)」
バイプレーヤーの楽しみは「メインプレーヤー(主役)の演技を間近で見られること」だと言う。大胆にして繊細、豪快にして謙虚。こわもての下の素顔が垣間見えた。