「まさかカンヌを受賞できるなんて考えたこともなかったです。大きなグリーンバックを背負って街を歩くから秋葉原で警察に止められるし、見た目が滑稽だから『お笑いに転身したの?』って訊かれたりして。でもこれでやっと趣旨が伝わったのかな。ほんと、やっててよかった!」
こう語るのは、双子ユニット・Mika+Rikaだ。14年12月、「もっと知ってもらおう!」と肖像権や著作権を放棄し“フリー素材アイドル”になった2人。ホームページが一時サーバーダウンするほど大きな反響を呼んだ。今年2月からは「グリーンバックアイドル」という新プロジェクトを開始。それは緑色の背景を背負って、町を歩き企業に直接訪問。要望に合わせて2人がポーズをとるというものだ。撮影者は写真を好きに切り取り、合成できるという。
そんな自由な発想が認められたMika+Rikaは、なんと6月に開催されたカンヌの広告賞「カンヌライオンズ2019」のSocial&Influencer部門でブロンズを受賞したのだ!
Mika(以下・m)「フリー素材は、こちらがアップしたものをダウンロードしていただくという形なんです。すると『好きなポーズを指定したい!』『オーダー型はないの?』といった声をたくさんもらって。それで『グリーンバックアイドル』を始めたんです」
Rika(以下・r)「グリーンバッグを背負って街を歩いたりするときに、お金の発生しない活動だからマネージャーさんを呼ぶのも悪くて。代わりにウチの母親を連れていたんですよ(笑)。荷物持ちとかカメラマンをやってもらったりして」
m「親っていうとダサいから、会う人には『マネージャーです』って嘘ついて(笑)。母も『報われた!』って喜んでいます。何より、私たちを使ってくれたりSNSで広めてくださったりした方々に感謝です」
カンヌだけでなく、アジアの広告賞「PR AWARD ASIA 2019」も同月に受賞。その数日後にはPR大使を務める地元・埼玉県三郷市のイベントで、市民たちとともに挑戦した“本交換数”でギネス記録を更新! Mika+Rikaはいま、世界規模でその名を轟かせている。
もともと姉のMikaは商社に勤め、妹のRikaはシステムエンジニアだった。脱サラをしてまで芸能活動を始めたのは「お世話になった映画監督の死」がキッカケだという。
m「大学生のとき映画に出演したしたんですが、上映が始まったすぐのタイミングで監督が亡くなったんです。その後、就職してたくさんお給料をもらったりするうちに『私はこのままでいいのかな』って……。そんななか、休みの日にたまたまRikaとステージに立ったら人事のかたに『副業は禁止だから』と指摘されて。それで監督の三回忌に『やめなきゃ始まんないしな』と思って辞めたんです」
Rikaも後を追い仕事をやめた。2人はラップユニットとして13年11月にCDデビューを果たしたが、当初は順風満帆とはいかなかったようだ。
m「いやぁ、全然地獄でしたよ。とにかく全然目立たなかった。1,000万回くらい後悔しました」
r「三重県まで夜行バスで8時間かけて行って、やっとステージに立てるかなって時に『バックダンサーやってくれ』っていわれて。結局歌わせてもらえないどころか紹介もされず、それで終わり(笑)。でもその頃は、呼んでもらったことが嬉しかったんです」
「フリー素材になる」という宣伝方法はスタッフとの会議で決まった。「余計に仕事がなくなるかも」と不安になったようだが、“フリー素材アイドル”はSNSを中心に大ウケとなった。
m「ホームページの空いたスペースで自分がバナーを募集してたり、もらったティッシュの裏にRikaがいたり(笑)。ありがたいことです」
r「フリー素材アイドルを始めたことでデザイナーさんや、IT系のクリエイティブ志向の方々にも知ってもらえて。今までだと知ってもらえなかった層に届いてるのがすごく嬉しいです」
写真集やCDも無料で“販売”するという徹底ぶりからさらに知名度が上昇。16年11月にはXperiaのCMに出演し、テレビやラジオの仕事が舞い込んだ。くわえて2人はトークスキルを活かし、講演会にも引っ張りだこだという。
r「この前も自治体の方に向けて、フリー素材を提供するプロジェクトについてお話ししました。広報誌を作るにしても、予算がないそうなんです。でも『予算がないなかでも宣伝したい』って、私たちがフリー素材を始めたキッカケと同じなんで応援したくて」
m「講演会で話すうちに三郷市のかたに出会って、それがキッカケでPR大使が決まったんです。そのお陰で、ご老人やファミリーのかたにも知っていただけました。イベント司会のお仕事も、今後はもっとしていきたいな」
一卵性双生児だが、「目や鼻の形、唇の薄さが違う」と話す2人。カンヌを受賞した後の“次の野望”には、こう声を揃える。
「せっかく海外の賞をもらったんで、いつか世界各国にグリーンバックを背負って行きたい。世界中の人たちに私たちを撮ってもらって、使って欲しいです!」