紫綬褒章をはじめ数々の演劇賞を受賞しているケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA・56)。彼の戯曲を連続上演するシリーズ「KERA CROSS」の第一弾『フローズン・ビーチ』(7月31日~8月11日、東京・シアタークリエにて。以降、8月31日まで大阪、静岡、愛知、高知、高松でも公演)に出演する鈴木杏(32)は、子役の時代から芝居に魅了された実力派だ。
「手を伸ばしても届きそうもない憧れの演出家や共演者、ハードルが高い戯曲……ワクワクしすぎて稽古が始まるまで台本を手に途方に暮れていたほどです(笑)」(鈴木・以下同)
本作は、’87年から8年ごとの夏の日に焦点を当て、16年にわたる4人の女たちの心の内をあぶり出すミステリー・コメディ。複雑に絡み合ったそれぞれの運命が予期せぬ結末へと向かっていく、スリリングな会話劇だ。
「私の役は、ブルゾンちえみさんが演じる友人・市子に振り回され、いろんな壁にぶつかりながら生きていく女性。自分というものが定まっていなくて、周りの人の支えがないとふわふわしてしまう。密室劇で、それぞれの本性がむき出しになっていくさまは激しいけれど、現実的だと思います」
吸い込まれるような大きな瞳。32歳になり、最近、絵画を始めたという。
「絵は安定剤みたいな感じです。写経に近いかな。生活の中の娯楽ってすべて女優という職業につながってしまう。本を読んでも演劇を見ても、感性の点で職業と切り離せなくなってしまって。だから絵を描くのは息抜きのようなものです」
30代になって、“以前より楽になった”と語る。
「無駄に頑張らなくなりました。20代は自分じゃないものになろうと必死だった。だから空回りしたり自分をイヤになったり……でも、そんな自分と向き合って生きていくんだなと悟ったときに、ダメな部分もあってもいいかな、と。すると、その時々に頑張りたいことに、肩に力を入れずに立ち向かえるようになったと思います。たとえば、『それ、できないんだよね』と正直に言うのが恥ずかしくなくなって」
キャリアが長い彼女。KERAや演出の鈴木裕美とも10代で知り合ったそうだ。
「安心できる親戚のおじちゃんとおばちゃんみたい(笑)。裕美さんは15歳の私を演劇の世界に引きずり込んでくれた大事な存在なんです。萎縮したり緊張したりすることなく、カッコつけずに思いっきりトライできそうです」