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現在、大ヒット公開中のディズニー映画『アナと雪の女王2』。12月10日発表の情報では、封切から3週連続で興行成績トップをキープしていると発表された。今作のヒットの理由の考察に入る前に、まず前作『アナと雪の女王』について振り返っておきたい。

 

■“ディズニー映画の固定観念”を覆した前作はアニメ映画史上最高にヒット

 

前作『アナと雪の女王』は、それまでのディズニーのプリンセス映画とは異なるものであった。同作の主役は姉・エルサと妹・アナの二人姉妹。ディズニー映画史上、初のダブルヒロイン体制の一作だ。

 

それまでのディズニーのプリンセス映画では、運命のプリンスに選ばれ、「真実の愛」を享受するという「ハッピーエンド」が描かれてきた。もちろん、『ムーラン』や『プリンセスと魔法のキス』といった作品では、新しい女性像の確立が試みられていたが、あくまでもディズニー・プリンセス映画の主人公は、今も昔も変わらないものを残しながらも、受け身な存在であることが多かったのだ。

 

しかし、『アナ雪』で描かれた「真実の愛」は、決して、運命のプリンスからのキスを意味するものではない。

 

同作のクライマックスにおいて、アナが死の危機に瀕した時、彼女を救ったのは、運命のプリンスではなく、最愛の姉・エルサだった。ここで描かれた「真実の愛」とは、まさに姉妹の絆であったのだ。そしてまた、エルサ自身も、その「真実の愛」の力によって、“雪や氷を作り出す魔法の力”を正しく受け入れ、自らの「ありのまま」の生き方を選択できるようになる。

 

『アナ雪』は、既存のディズニー・プリンセス映画の「ハッピーエンド」を相対化した上で、全く新しくも普遍的な幸せの在り方を、世界中の観客である「私」に提示してみせたのだ。幸せの形は決して一つではないことを力強く示してみせたという意味で、この映画は、今でこそ世界の一大テーマとなっている「多様性」の先駆けであったといえる。

 

結果、『アナ雪』は、アニメ映画史上最高の興行収入を記録。主題歌“レット・イット・ゴー~ありのままで~”が伝えるメッセージは、スクリーンの前の一人ひとりの「私」の人生を彩り、鼓舞し、導いてきた。

 

それでは、5年の時を経て公開される『アナと雪の女王2』は、いったいどのようなメッセージを伝えてくれるのだろうか。

 

■前作から3年。エルサの力の謎を解き明かすための旅が始まる

 

物語は、前作の3年後から幕を開ける。

 

アレンデール王国の女王となったエルサ、そしてアナの2人姉妹は、クリストフやオラフたちとともに幸せな日々を送っていた。しかしある時を境に、エルサは、どこからともなく響く不思議な歌声を耳にするようになる。

 

そして、その歌声に応えるように魔法の力を解放したエルサ。その直後、アレンデールを、火や風、大地と水といった古代の精霊にまつわる天変地異が襲う。アナとエルサは、精霊の謎・そしてエルサの力の謎を知るために旅に出る。

 

■アナやエルサたちとともに、観客である「私」も大人になる

 

前作から3年の月日が流れ、エルサとアナは「大人」の女性となった。それぞれのキャラクター描写や台詞からは、「変わらないものはない」という今作のメインテーマが読み取れる。オラフが、今作において「大人になること」「変わりゆくこと」について、何度も語っていることが印象的だ。

 

そして、最愛の妹・アナと共に幸福な日々を過ごしていたはずのエルサは、自らの「内なる声」に抗うことができず、再び冒険へ飛び出す。今の平穏を犠牲にしようとも、彼女にはまだなすべきことがあるというのだ。

 

そう、『アナ雪2』で描かれるのは「真実の愛」の先に広がる「未知の旅」。つまり、人生についての物語なのだ。今作のメインテーマ“イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに”は、新しい道を力強く歩み出すための決意のアンセムである。

 

観客である私たちの実人生を振り返ってみれば、当たり前ではあるが、何かをなし遂げたとしても、人生は続いていく。前作から5年。当時、幼稚園に通っていた人は、今では小学校高学年に。高校生だった人は、社会人に。5年前の前作公開当時、“レット・イット・ゴー~ありのままで~”に奮い立たされた大人たちも、新しい人生のステージへと進んできたはずだ。大切な人と出会い、守るべきものを手にした人も少なくないだろう。

 

観客の「私」たちは、この5年間、一歩ずつ未知なる旅路を歩んできたのだ。今作で描かれるエルサとアナの葛藤や苦悩は、彼女たちと同じように冒険を続けてきた「私」の心境と強く共振するはずだ。

 

■音楽・映像の圧倒的迫力。まさに、ディズニー・ミュージカルの真骨頂

 

また言うまでもなく、今作においても音楽が重要な役割を果たしている。物語のメインテーマを謳う“イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに”はもちろん、“みせて、あなたを”では、「ありのまま」の先へと変革を遂げる力強い意志が提示されている。あまりにも圧巻だ。

 

映像表現の進化も凄まじい。壮大なスケールで描かれるダーク・ファンタジー調の世界観や、氷や水の映像美、そしてド迫力のバトルアクションは、映画館で観てこそ堪能できるものだろう。

 

音楽と映像、そして、「私」の人生を導く輝かしいメッセージ。その三つが渾然一体となった時の爆発力は、やはり今回も健在だ。これぞ、まさにディズニー・ミュージカルの真骨頂である。

 

アナやエルサと共に成長してきた全ての「私」の人生にとって、この映画が果たす役割はきっと大きいはずだ。

 

【プロフィール】
松本侃士(まつもと つよし)

編集者・ライター。1991年生まれ。慶應義塾大学卒業。2014年、音楽メディア企業 ロッキング・オン・グループに新卒入社、編集・ライティング等を経験。2018年より、渋谷のITベンチャー企業にてメディア戦略を担当。「note」にて、音楽や映画のコラム記事を毎日投稿中。

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