今はなきイルミネーション=1993年12月、宜野湾市 画像を見る

 

もうすぐクリスマス。街は今年も色とりどりのイルミネーションに彩られ、聖夜のムードを盛り上げている。何気ない景色の中で、あなたは気付いただろうか。もう明かりをともさなくなったイルミネーションがあったことに…。そんな“消えたイルミネーション”のナゾに迫ってみたい。(田吹遥子)

 

「セルラーのイルミネーション」今は?

 

クリスマスシーズン、遠くからでもカラフルな電飾がはっきりと見えたビックツリーがあった。でもいつの頃からか、クリスマスになっても明かりがともることはなかった。それは宜野湾市の琉球大学北口近くにある鉄塔のイルミネーションだ。

 

記者の記憶では、このイルミネーションのことをみんな「セルラーのイルミネーション」と呼んでいた。明かりが消えただけなのか、鉄塔自体がなくなったのか。そもそも「セルラーのイルミネーション」とは何だったのか。

 

12月21日の午後8時すぎ、気になって近くまで行ってみた。よく見ると「沖縄セルラー電話」とある。どうやら沖縄セルラー電話の基地局のようだ。クリスマス前だが、鉄塔は備え付けと思われる赤いライトが光るのみで電飾はない。

 

「あのイルミネーションは本当にあったのか…」。鉄塔を眺めていると、その記憶さえも疑わしく思えてきた。社内外で複数人に尋ねると「10年くらい前まではあったと思う」「高速で見えたときはテンションが上がった」などの意見が得られた。「やはりあったよな」。少し安心した。

 

一つではなかった…!

 

琉球新報社のデータベースで検索すると、セルラーの基地局のイルミネーションに関する記事が5本ほどヒットした。一番古い記事は1993年12月8日の夕刊一面。記事や沖縄セルラー電話の社史によると「宜野湾無線基地局」である鉄塔は全長が56メートル。電球は2千個。「ドリームビックツリー」との名称で「子どもたちに夢を与えられる企業でありたい」との願いを込めて、同年12月6日に点灯した。

 

さらに「基地局 イルミネーション」などで検索すると、同様のイルミネーションが宜野湾市以外にもあったことが分かった。セルラーは今帰仁村の基地局でも実施。2001年の記事によると、NTTドコモも、一日橋(那覇市)、佐敷(南城市)、知念(南城市)、玉城(南城市)、乙羽(今帰仁村)の基地局で、高さ42メートルのクリスマスツリーをイメージしイルミネーションを点灯していたという。

 

複数の南部在住者に尋ねてみたが、イルミネーションの存在を覚えていた人はいなかった。今帰仁村以外の基地局と思われる場所をまわり全て確認したが、イルミネーションはなかった。

 

知られざる理由

 

そもそも基地局のイルミネーションはいつからなぜ始めたのか。そしていつ、なぜ、明かりをともすのをやめてしまったのか。

セルラーの基地局では、記事の通り1993年に始まった。沖縄セルラー電話総務部の大城武史さんは「近くにある国立沖縄病院に入院している患者さんのために始めたそうです」と話す。確かに、ツリーはちょうど病院内からも見える位置にある。
1996年12月4日付の記事には、同院に入院している患者が「電話で合図してツリーが点灯した」との描写があり、その後にこんなコメントが続いた。「毎年心待ちにしています。病院の廊下からも見えるので、明日も廊下を通るのが楽しみ。私たちも負けないように輝きたい」。

 

いろいろな人が楽しみにしていたイルミネーションだが、セルラーの大城さんによると、2008年にやめた。理由は「観光公害と聞いています」とのこと。よくよく聞くと事情はこう。基地局の付近はクリスマス時期には人気デートスポットになり、大勢のカップルや家族連れが訪れた。マナーを守らない見物人のせいでゴミや騒音が発生。近所迷惑になってしまった。セルラーは、地域への影響を懸念し西原局だけでなく今帰仁局のイルミネーションも取りやめたという。

 

セルラーは5~6年前から、久茂地の本社ビルでイルミネーションを実施している。地域の人や近くの会社に勤める人たちを招待したクリスマスコンサートも開いている。大城さんは「今は別の形でやっています」と話した。

 

さて、ドコモはどうだろう。NTTドコモ九州沖縄支店に尋ねて確認できたのは「イルミネーションをかつてやっていたが、今はやっていない」ということまで。明確な記録や資料がなく、開始の時期や理由、取りやめの時期や理由共に「分からない」という。謎は深まる。

 

セルラーとドコモの“基地局イルミネーション”がなくなっても、今年もクリスマスを前にたくさんの明かりが輝き、人々の目を楽しませている。しかし、ひょっとしたら今年が最後になってしまうイルミネーションもあるかもしれない。そう考えると、これまで以上に尊い夜を過ごせそうだ。

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