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【今週の悩めるマダム】
夫が若年性アルツハイマーを発症しました。昼夜は逆転し、気づけば夜中に家からいなくなっていることも。最近ではひとりで着替えさえできません。私は昼にパート、帰ったら夫の世話で疲れ切っています。施設に入ってもらうことも考えていますが、可哀想だという気持ちもあります。(三重県在住・50代主婦)

 

実は、僕も10年前に頭の手術をしました。僕の場合、自分に何かあれば息子に迷惑をかけることになります。若年性アルツハイマーを抱えた家族を介護しながら働く奥様の苦しみを考えると、とても簡単に答えられるテーマではありませんね……。少し話は違いますが、僕の年上の友人アンヌ・マリー(仮名)は、母親と同じ84歳です。でも、彼女も物書きでよく頭を使うからか、とっても明晰(めいせき)な頭脳を持っていて、矍鑠(かくしやく)としています。いまだに本を書いたり、翻訳をしたりして生きています。彼女には僕と同世代の息子さんがいるのですが、彼は精神に少し問題を抱えています。簡単に説明すると、世間とうまく関われないのです。息子さんは確か児童書の編集の補助をされているはずですが、独身ですし、家族がいないので、アンヌ・マリーの家で暮らしています。

 

ある日、僕はアンヌ・マリーと2人で食事をしたのですけど、その帰り道、「辻さん、私ね、もしも日常生活ができない状態になったらスイスに行って死ぬの」と言いだしました。フランスでは認められていませんが、スイスでは安楽死を選択することができます。アンヌ・マリーは息子さんに迷惑をかけられないので、いずれそこに行くことになる、と僕に打ち明けました。僕はびっくりして、動けなくなってしまったのです。彼女とは20年来の友人で、「フランスの母」「日本の息子」と呼び合う仲です。彼女はうっすらと涙を浮かべていました。それ以降、ときどき、アンヌ・マリーが言った「安楽死」という言葉が心を過(よぎ)ります。そのような悲しい死を選ぶ人が欧州にはたくさんいます。

 

奥様の場合、僕がこういうご提案をしていいのかわかりませんが、経済的に叶(かな)うのであれば施設にご主人を託してはどうでしょう? 昼間に働き、夜中までご主人の面倒を見続けていると、いつか限界が訪れるのではないか、と心配になってしまいます。冷たい意見だと思わないでください。ご主人がアルツハイマーではなく、第三者としてその場にいたら、「施設に入れなさい」と助言してくれるはずです。休みの日などに施設に会いに行けばいいですし、施設じゃなくても、デイケアなどを活用する手もあるかもしれません。奥様も生きています。共倒れしてしまっては、元も子もないのです。

 

僕は息子と45歳の年齢差があります。彼はフランスの教育で育ったので、今更日本での生活は難しい。彼は僕の死後、フランスでひとりで生きていくことになるでしょう。彼が早く家族を作りたいのは、きっとその孤独感から。もし自分がアルツハイマーになったら、息子に迷惑はかけたくない。アンヌ・マリーと同じ気持ちになるでしょう。きっとご主人も同じです。「お前に無理をさせたくない」と、元気だったころのご主人は奥様に言ってくれるはずです。

 

【JINSEIの格言】
僕は息子と45歳の年齢差があります。もし自分がアルツハイマーになったら、息子に迷惑はかけたくない。きっとご主人も「お前に無理をさせたくない」と、思ってくれているはずです。

 

この連載では辻さんが恋愛から家事・育児、夫への愚痴まで、みなさんの日ごろの悩みにお答えします! お悩みは、メール(jinseinospice@gmail.com)、Twitter(女性自身連載「JINSEIのスパイス!」お悩み募集係【公式】@jinseinospice)、またはお便り(〒112-0811 東京都文京区音羽1-16-6「女性自身」編集部宛)にて絶賛募集中。 ※性別と年齢を明記のうえ、お送りください。

 

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