「すごいパッション」「Awesome(カッコいい)」―。1月中旬、沖縄の青年の行動がネット上で米プロバスケットボールNBAのファンをざわつかせた。バスケの指導者を志す仲村匡世さん(23)=八重瀬町、琉球大4年=だ。一念発起して本場での武者修行を企てた。計画通り単身渡米したのが昨夏のこと。縁もゆかりもない現地の大学でコーチングを学んだり、名将を突撃訪問して助言をもらったりすることに成功した。アポイントなし。情熱のみで局面を切り開く行動が関係者の間で次第に話題となった。八村塁が所属するNBAチーム「ワシントン・ウィザーズ」の日本語版公式ツイッターで紹介され、動画が計10万回以上再生された。指導者として貴重な機会を自力で手繰り寄せた仲村さんは「好きなことがあれば、とことん突き詰めてやればいい」と胸を張る。 (長嶺真輝)
▽体当たり入門
仲村さんは中学、高校とバスケ部に所属した。大会でなかなか勝てず「『自分ならこうする』と頭の中で戦略を考えるようになった」とコーチを志すようになった。琉球大進学後、母校や琉球ゴールデンキングスのスクールなどで指導を経験し、昨年8月に大学を休学。アルバイトでためた資金を手に「世界一の場所で、世界一の戦術を学びたい」と一人で渡米した。
米大学バスケは千校以上が所属し、海外のプロリーグと比べても遜色のないレベルで知られる。その学生バスケの世界最高峰へいきなりの体当たり入門を試みる。
受け入れの確約はなかったが、シカゴ大のマイク・マクグラスHCが講師を務める指導者講習に飛び込みで参加し「コーチングを勉強させてほしい」と熱意を直接伝え、了承を得た。午前中は語学学校に通い、午後は練習で動画撮影の役割を与えられ、コーチ陣の会議への参加が認められた。
▽NBAに招待
昨年末には、練習のオフを利用して米大学バスケ界の名将、ミシガン州立大のトム・イゾーHCを突撃訪問した。
雪の中、練習場の外で待つこと5時間。「通る人に片っ端から声を掛けていたら、その一人が大手テレビ局の人で話を通してくれた」と、HCとの面談に成功し、助言を受けた。
後日、ベンチ裏で公式戦の観戦が許可された。その試合は全米にテレビ中継されており、放送中に紹介された。
それを見たウィザーズから連絡があり、1月のNBA公式戦に招待される。当日、チームからインタビューを受ける様子などがツイッターで紹介され、日本のNBAファンを驚かせた。ウィザーズのデビッド・アドキンスACは「コーチになりたいという気持ちが伝わってくる。若くして目標が明確なのはすごいこと」とその行動力を称賛。翌月には練習の見学にも招かれ、再びツイッターで紹介された。
▽名将へ一歩
今回の渡米では、守備側の対応に沿って複数のプレーを瞬時に選択して攻略する攻撃戦術「モーションオフェンス」の理論を主に会得した。「米国は大学間の競争が激しく、何パターンもプレーがある」と指導者の卵として学ぶにうってつけの場だったという。面談した大学トップチームのコーチらからは、選手との接し方やチームのまとめ方など、精神面やチーム運営についての考え方を聞く機会もあった。
3月には沖縄に戻った。今後は琉大バスケ部のコーチとして腕を磨く。将来の目標は「任される場所、自分が成長できる場所で頑張りたい」と実直さを忘れない。類いまれな行動力で蓄積した知識や助言を糧に、名指導者への階段を一歩ずつ上っていく。