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【連載】玉置妙憂の心に寄りそう人生相談<第39回>

TBS『グッとラック!』のレギュラーコメンテーターをはじめ、数々のメディアにも紹介され大反響を呼んでいる新書『死にゆく人の心に寄りそう~医療と宗教の間のケア~』(光文社)の著者・玉置妙憂さんが毎週、読者の悩みに寄りそい、言葉を贈ります。

 

【今回の相談内容】

会社の働き方がテレワーク中心になり、定年退職を自宅で迎えそうです。私は今年の11月、60歳になり、37年間勤めた会社を定年退職します。勤めている会社は去年、定年退職した人に退職の挨拶をしてもらったり、感謝状を渡したりと、小さなセレモニーを開いていました。しかし、今回のコロナ禍を受けて働き方はテレワークにシフト。通勤手当もなくなるという本気ようで、会社にはほとんど誰も行かなくなりました。私は目立つことが好きではないので、セレモニーがなくなりそうなことに関してはホッとしています。一方で同僚に全く気づかれずに職場を離れる寂しさやお世話になった人に直接挨拶することができないもどかしさは感じていて、会社をやめた実感がわかず、気持ちの区切りをうまくつけられない気もしています。どうしようもないことだとはわかっているのですが、どうすればこのモヤモヤを解消して退職できるでしょうか。(59歳・女性・会社員)

 

【回答】

37年間にもわたるご勤務。まさに偉業。まずは、心からリスペクト申し上げます。

 

きちんと最後の区切りをつけたいと思っていらしたのに、このコロナ禍で出勤すらままならなくなってしまわれたのですね。いかんともしがたい複雑なお気持ちでしょう。「どうすればこのモヤモヤを解消して退職できるでしょうか」。ごもっともです。浅知恵ですがご提案させてください。

 

まずは、ご自分のお気持ちを整理してごらんになってはいかがでしょうか。「セレモニーがなくなりそうなことに関してはホッとしている」とおっしゃっておいでですが、果たして本当にそうですか。

 

どうも行間から「私にもセレモニーをやるのが当然でしょう」「37年間も勤め上げての晴れ舞台だったはずなのに」「私も感謝状と花束が欲しい」「同僚や上司から労いの言葉があるべき」という無念がにじみ出ていらっしゃるようにお見受けするのですが、いかがでしょう。

 

そういうお気持ちになるほうが、私にはかえって自然なような気さえします。万一にでも、そのお気持ちを大人の自粛で抑え込んでしまわれているようなことがあると、もっとモヤモヤ度が増すことになると思うのです。残念無念は口に出して大っぴらに認めてしまった方が、お気持ちはすっきりするかもしれません。

 

同時に、37年間も続けてこられた生活スタイルが変わるのですから、ある種の喪失感や虚脱感のようなものが芽生えてもおかしくありません。

 

「さて、これからどうしよう」という漠然とした不安は、例年通りにセレモニーが開催されて同僚やお世話になった方々に直接ご挨拶することができたとしても生じるもので、いま抱えていらっしゃるモヤモヤの原因はそこではないかもしれません。

 

長い年月を費やしてきたものから離れるとき、そうそう簡単には気分転換できないのが、私たちのような気がします。「モヤモヤを解消してすっきり退職」は理想ですが、現実ではないということです。

 

次の生活スタイルに慣れていくまでに、モヤモヤするリハビリ期間がきっと必要なのでしょう。そんな気がいたします。

 

【プロフィール】
玉置妙憂(たまおきみょうゆう)
看護師・看護教員・ケアマネ-ジャー・僧侶。「一般社団法人大慈学苑」代表。著書『死にゆく人の心に寄りそう』(光文社新書)は8万部突破のベストセラー。NHK『クローズアップ現代+』、『あさイチ』に出演して大きな話題に。現在、TBS『グッとラック!』(火曜)のコメンテーターとニッポン放送『テレフォン人生相談』のレギュラーパーソナリティを務める。

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